第29話

“恋愛は前戯だ”と見做すものがいた。


ならば、契約を交わした記念に今だけその前戯の真似事でもしてみせようか。





「ねえーー運命って信じる?」





えらくご機嫌な百合の声が静かな廊下に響いた。



哀愁をタタえた瞳で婀娜っぽく微笑んでみせる百合に対して、紫藤も微笑を浮かべながら視線を外してこう言った。





「——信じねえ」





やっぱり、慣れないことはするもんじゃない。


この曖昧模糊な関係が一番幸福なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る