第24話 【嘘つき】
先輩と別れ、外に出た俺は夕焼け空を仰ぎ見る。
俺は常盤先輩に教えてもらったことを頭の中で繰り返しながら、カメラのファインダーを覗いた。
うん。なんか少しだけ見え方が変わったような気がする。光の加減とかそういうのを意識しながら、俺はシャッターを押す。
何となく撮った空の写真だけど、結構綺麗に撮れた気がする。
後でこれをパソコンに保存して、ドライブに共有してから呉羽に送る。ちょっと面倒だけど仕方ない。
「さて……帰るか」
早く写真を送りたいし、腹も減った。珍しく頭使ってるせいかもしれないな。甘いものは別に好きじゃないけど、なんかちょっとだけ食べたい気分だ。
俺は近所のスーパーに寄ってから家に帰った。
そういえば、いつも景色とかの写真しか送ってないけど食べ物とか送ったらどういう反応するんだろう。さすがに驚きはしないか。いくら何でも飯くらい普通に食ってるだろうし。
そうなると、普通じゃないもの。ご当地の食べ物とか、そういうのかな。たまには旅行とか行ってみるかな。とはいっても暫くは金ないから無理なんだけどさ。
まぁでも、食べ物を美味しそうに見せる撮り方とか練習するのはアリか。
俺はスーパーの袋に入った小さいデザートをテーブルの上に置いて、カメラを構えてみた。
試しに一枚撮ってみたけど、なんか違うな。すげーしょぼく見える。もっとカフェのメニューとかに載ってる風にしたいんだけど。スーパーの安いデザートだからダメだったのか?
いや、そんなことない。きっと光だ。光が足りなくて暗いからいまいちなんだ。上手くやればもっと盛れる。プリクラみたいに詐欺みたいな写真が撮れるはずだ。
俺はそれから数十分くらい写真を撮り続けた。
まぁそれなりに満足いくものが撮れた、気がする。最初に撮ったものより良くなったかもってレベルだけど。
「……食うか」
地味に疲れたな。
俺は夕飯もまだなのに、デザートを先に食った。味は普通だな。そりゃあ三百円程度だしこんなものだろう。
さすがにファミレスでパフェ頼んで食わずに写真撮り続けるわけにもいかないし、そもそもパフェとか食べきれる自信もないし。
「あ、そうだ」
俺はパソコンを起動させて、今日撮った写真を保存した。
そこから何回か選んで、それをドライブに共有させる。今日撮った学校の写真も見せてやろうかな。もし本当にアイツがガキなら大学の中がどうなってるかも知らないだろ。
『こんばんわ、呉羽。今日は先輩に写真の撮り方を教わったんだ。少しは上手くなってると良いんだけど』
そう書いて、写真を添付した。
返信が来るまでにお湯沸かすか。俺はスマホをズボンのポケットに入れて立ち上がり、キッチンに向かった。
ヤカンに水を入れてると、ブーとスマホが振動した。もう返事来たのか。呉羽、最近は本当に打つの早くなったな。
『こんばんわ、圭吾。写真、ありがとう。とてもきれい。なんだか自分の目で見るよりもきれいに見える』
『そうだね。確かに目で見るよりも色が鮮やかに写るかもしれない』
『このイスがいっぱいあるの、なに?』
『これは俺がいつも勉強してるところだよ。今日は先生に頼まれて大学の写真を撮ってたから』
『すごい。初めて見る。色んな人もいるね』
『遊園地の写真の方が人は多かったけどね』
『でも、すごい。ここで圭吾はお勉強してるんだね』
困ったな。俺、ほとんど真面目にお勉強してないんだけどな。
純粋に真面目な圭吾くんを信じてる呉羽ちゃんには申し訳ないけど、まぁ嘘も方便ってことで許しておくれ。
どうせ、俺らが出会うことはないんだろうし。
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