第23話 「からっぽ」





「……うーん」


 私は朝からずっと里の中を歩き回っていた。

 苓祁兄の言った言葉が気になって、本当に誰も居ないのか確認したいと思ったんだ。

 もしかしたら、誰かいるかもしれない。苓祁兄みたいに里に顔を出しに来てる鬼がいるかもしれない。


 そう、思ったんだけど。


「……誰も居ないや」


 気配も感じられない。誰かが足を踏み入れたような形跡も残っていない。

 やっぱり、この里にはもう私しかいないんだ。この広い里の中に、私は一人ぼっちなんだ。


「……みんな、いないんだ」


 多分、今までの私なら何とも思わなかったはず。

 でも何でかな。今は寂しい。寂しいって気持ちで胸がギュウギュウになる。


 昔、私が生まれる前はもっと鬼がいたのかな。私の両親とかも、きっとここにいたんだよね。

 顔も一緒にいた記憶も何もないけど、少しだけ会ってみたかったかも。


「……寂しい」


 もう、永遠に一人ぼっちなんだ。

 どうしようもないの?

 どうにもならないの?

 別に鬼という種族に思い入れなんてない。だけど、このまま無くなってしまうんだって思うと悲しい。

 胸が、痛いよ。


「……けーご」


 悲しいよ。なんでだろうね。

 里での思い出なんかないのに、他の鬼との思い出なんか苓祁兄以外ないのに。それなのに、悲しいなんて。寂しいなんて思うのは、どうしてなんだろうね。

 けーごは、周りにお友達とかがいっぱいいる。親もいる。その全部がいなくなったら、どう思う? やっぱり悲しい?

 悲しいと思うのは、鬼だけじゃないよね。私だけじゃ、ないよね?


「私だけ、じゃ……ないよね?」


 風がない。音もない。耳の奥が少し痛い。

 私、本当に独り。


 木々の隙間を抜けていくと、少し開けた場所を見つけた。

 こんな奥の方まで来たのは初めてだ。


「……え」


 これは、何だろう。家、かな。確か苓祁兄から貰った絵本にこんな感じの家が書かれてるお話があった。

 昔はこうやってみんなで暮らしてたの?

 誰の気配も感じないのを確認して、私はボロボロになった家に入ってみた。


「……わぁー」


 少し暗いけど藁で出来た屋根から差し込む光で中が見える。

 生活していた跡も残ってるけど、それはもう何十年も前のことなんだろうな。


「いつから、こうなっちゃったんだ?」


 以前はこうやって鬼同士が暮らしていたのに、なんで。何があったの?

 私は他の家も一つ一つ調べていったけど、どれも似たような感じ。本みたいなのもあったけど、触った瞬間にボロボロになっちゃった。


 最後に一番大きな家を調べてみた。そしたら、その中は他の家よりもずっとボロボロで、荒らされたような跡があった。

 喧嘩でもしたのかな。椅子とか壊れちゃってるし、割れた器とかが床に散らばってる。

 鬼同士で争ったのか?

 だから、鬼は孤立するようになったのか?


「……だから、独りになっちゃったんだ……」


 なんでこうなったの。じゃあ何で人間界に行くの。孤独を選んで生きてるのに、なんで。変なの。

 ここで私が考えたところで答えは分からないけど、なんか気になる。

 苓祁兄はこの場所のことを知ってるのかな。もし知っていたら、昔何があったのかも分かるかな。聞いて答えてくれるのかな。


 知りたい。

 教えて。


 私は鬼なんだ。

 だから、知ってもいいよね。



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