第21話 「そとのせかい」
苓祁兄が帰った後、私はボーっと空を眺めていた。
私は、これからどうしたらいいんだろう。苓祁兄は余計なことは何も考えなくていいって言ってくれたけど、そうも言ってられないんじゃないかな。
この里、誰も居なくなっちゃう。
別に思い入れとか愛着がある訳じゃないけど、そうなると気になっちゃうというか。
「……どうして、こうなっちゃったんだろう」
確かに鬼は力がある。人間の何十倍の力があって、それは容易く相手を傷付けてしまう。
そんなのイヤ。だから、力が制御が出来たとしても孤独になることを義務付けられる。
ううん、きっと義務じゃない。自分自身がそう思って行動してるんだ。私だって相手を傷付けるかもって思ったら一緒にいるのが怖くなっちゃう。
でも、じゃあなんで鬼は里を出るの。確かにここは何もなくて不便かもしれない。だけど里から出なければそんな不安を感じることもない。
誰が最初に里を出たんだろう。どうして人間界に行こうと思ったのかな。
「……赤鬼、かな」
そうだ。けーごに教えてもらったお話。
もしかしたら、あのお話の赤鬼と同じように思った鬼がいたのかもしれない。人間と仲良くなりたいって、そう思ったから。
でも、掟があるってことは仲良くなれなかったのかな。
この力のせいで仲良くなれなかったから、こんな掟が作られたのかな。
大好きな人間が傷付かないように。
人間界に行くためには、力を制御できるようにならないといけない。
人間に鬼の存在を知られないために。
人間にとって鬼は脅威。恐れられる存在。
知られたら、嫌われちゃう。
「……だから、知られたくない」
鬼は正体を隠さないと人間界では暮らせない。そうまでして人間界に行きたいのは、何で。
やっぱり不便だからって思う鬼が多いのかな。
それは確かにそうかもしれない。私も人間界にはとても興味がある。だから行きたいって気持ちは分かる。
じゃあ、どうして向こうで暮らそうとするの。人間とは触れあえないのに。ここを離れないといけないのは、何でなの。苓祁兄はなんで人間界に住もうと思ったんだろう。便利っていうのは、そんなに良いものなのかな。
「……私は、どうしたらいいのかな」
ここを出るべきなのかな。
ちゃんと大人になって、人間界で生きていくべきなのかな。このまま、ここで生きていくのも選択肢の一つじゃないのかな。
「……わかんない」
自分の生き方、ちゃんと決めなきゃいけないのになぁ。
まだ私は力の制御も出来ない。それに全然子供だ。このまま人間界に行ったって何も出来ない。だから急ぐこともないんだけど、何でか焦ってる。
けーごと知り合ったせい?
それとも、この里に鬼が居ないことを知ったせい?
いや、全部かな。
もしかしたら、寂しいのかもしれない。ここは、何もなくてつまらない。誰も居ない。
人間界はとても賑やかで、たくさん人がいる。写真を見てるだけでとてもワクワクできた。
そうだ、ここは寂しい。
「……一人は、寂しいから」
だから、なのかな。
少なくとも私は、寂しいから人間界に行きたいな。たとえ触れ合うことが出来なかったとしても、この寂しさは感じなくて済むかもしれない。
ぽつんと、ひとりぼっちにならないで済む。何もない、この空間に取り残されなくていい。
「……そっか、そうか」
そういうことなんだ。
この掟に、耐えられなかったのかな。孤独であることに耐え切れなくて、それで鬼の里を出たのかな。
人間と深く関わるなっていうのも、相手を傷付けないため。仲良くしたいから、傷付けないように。何事もなく、人間界に居られるために。私も、そうしないといけない。
上手に嘘を付けるようにならないといけない。鬼だってこととか、今までどうやって暮らしてきたのかも、全部。自分を偽って生きなきゃいけない。
「けーご……教えてくれるかな」
上手な嘘の吐き方を。
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