第13話 「とおいせかい」




 最近、暇って感じるようになった。退屈って思うことが増えた。悩むことも増えた。

 何だろう。今までの私じゃない。私らしくない。

 自分らしさが何かは分からないけど、とにかく今までの私はこんな風になったりしなかった。


「……昨日は、楽しかった」


 一日ずっとけーごとめーるできた。だからずっと楽しかったし、私の顔はゆるゆる、緩みっぱなし。

 そのせいなのかな。なんか、胸の中がぽっかり空っぽになっちゃったみたい。

 今日もけーごは学校。陽が暮れるまで、私は一人。

 ぽつん、ぽつん。一人きり。

 寂しい。寂しいのはイヤだ。物凄くイヤ。

 私、こんなワガママだったんだ。あんなに沢山話せたのに、まだ足りないって思ってる。楽しい時間は人をワガママにさせるのね。


「色んなこと、いっぱい覚えた。沢山知った。でもまだ、私は子供」


 まだ私は、ここで独りきり。

 なんで、鬼はこんなに寂しい生き物なんだろう。どうして鬼はこんな力を持ってるんだろう。こんな力がなければ、もっと沢山の人と仲良くなれたかもしれないのに。人間とも仲良くなれたかもしれない。

 人間みたいに、家族と一緒に暮らせたかもしれないのにな。


「……あ」


 そんなことを考えてたら、目からポロっと涙が零れた。なんで泣いてるんだろう。泣くようなこと考えてたかな。

 わかんない。最近、分かんないことばっかりだ。何も知らない私には、自分の中の感情ですら名前が分からない。それは、何だか凄く悲しい。自分の中に生まれてくれた感情に名前を上げられないの、悲しい。


「涙、止まんない」


 ぽろ、ぽろ。

 大粒の雫が雨みたいに降ってくる。私、ワガママになっただけじゃなくて泣き虫にもなっちゃった。けーごに出会ってから、色んな私が顔を出す。

 沢山の私を知れたよ。それでもまだ、私は何も知らない。知らないことばっかりなんだよ。


「変なの……変なの、私。わかんない。わかんないよ……」


 知らないって、悲しい。分からないって、凄くイヤ。

 イヤだってなると、胸の中がモヤモヤってなるからイヤだ。


「……やだ。やだ、やだやだやだぁ……」


 何か落ち着かない。私は飛び出すように走り出した。誰も居ない里の中を駆けていく。

 ただただ、走り続ける。動けばスッキリするかなって思ったから。

 風を切る音が耳に響く。


 びゅん、びゅん。


 余計な感情を振り切ってしまいたい。何も考えたくない。

 木々の間をすり抜け、崖の手前で足を止めた。


「っ、はぁ……はぁ」


 荒れた呼吸を落ち着ける。全力で走ったから苦しい。

 でも涙は止まった。


「……ふう」


 どれだけ走ったんだろう。もうそろそろ陽が傾き始める。

 けーごからめーる、来るかな。私はその場に腰を下ろして、けーたいを見た。

 まだめーるは来てない。めーるが届くまで、私は昨日のめーるを読み返す。


「遠いな……」


 人間界は遠い。

 大人も遠い。

 みんな、みんな、遠い世界。


 近づけない。

 近付いちゃいけない。



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