IT業界にいるシェフを探せ

にこにこ先生

いわゆる「IT業界」は将来性が高いというような良いイメージで語られることもありますが、実はとんでもなくハードワークであることはあまり知られていません。その為、業界内は常に人不足なのにプロジェクトのメンバは辞めがちです。


「イノベーション」とか「リモートワーク」とかの華やかな言葉は人の目を曇らせてしまうのでしょう。その業界に僕はいます。


何と無く批判的な角度で語る一方、自虐する割に長期にわたって続けているシンプルな理由が一つあります。「一度経験してプロジェクトを通して身に着けた技術は、その後使いまわせる」です。


無論、技術は多岐にわたりますが、応用も効くのです。新しい技術を身に着けるべく勉強もしつつ、長期的に糧を得られるので、基本的にはにっこりです(時々しょんぼりです)。


このIT業界に「2025年の崖問題」というのがあり、経産省が提唱している物件で2025年までに解決しなければならない重大な課題のことを指します。


その一つが「IT人材の不足」です。デジタル技術を活用できるスキルを持つ人材が大幅に不足し続ける結果、日本国内でAIやサイバーセキュリティなどの分野に大きく遅れをとり、日本全体のDXも遅れてしまう、というものです。


現場にいる人は体感できると思います。そうなんです。人がいないんです。


その為、IT業界は案外、懐が広く様々な業界からの転職者を受け入れています。


一緒にお仕事をしているAさんは、この業界に来る前、バーテンダーをやっていました。シェイキングやグラスの種類の豆知識がAさんの事実を更に補強します。


そして、かくいう僕も、とあるカフェチェーンの社員でありました。最終的に情報システム部門の所属です。事実としてカフェチェーンは数えるほどしかないので、くれぐれもボクのことを詮索しないで下さいませ。


どの所属部署でも実店舗のオペレーションと流れを把握すべく、研修が設けられています。研修で一定期間、実店舗の営業に携わりました。


ドリンク入れたり、フライパンあおったりする日々が始まりました。そして以下のような失敗を繰り返してしまったのです。


## 僕の悪事ベストテン ##


1. 初日にグラスを20個割りました。


2. お持ち帰りの袋、めっちゃ間違えました。


3. パイ、焦がしました。


4. ホイップ、滝の修行みたいになりました。


5. カマンベールチーズを分厚く切り過ぎました。


6. トレーをお客様にお渡しするとき「カタカタカタカタカタカッ」といつも鳴っています。


7. アボカドをさばく時、ずるりとなりました。


8. バースデーのお皿にチョコペンで文字書く時、ヨレヨレになりました。


9. ミートソースをあてました(こがしました)。


10. 一斗缶の油を廊下にぶちまけました。


最初から最後まで脇汗びっしょりでミスを連発してしまいました。原始的な、いにしえから伝わるおっちょこちょい人間の系譜は、それでもちょっと経つとヘラヘラするので厄介です。


とまれ、実は言うと、僕はとても不器用なのです。店舗での研修なぞ向いていないのです。店長も呆れて何も言わなくなっちゃったんです。


でも調理に関しては楽しかったです。


一度、僕が作ったカルボナーラがお客様から直接「美味しかった」と言ってもらえたことがありました。「シェフを呼んでくれ」の一歩手前ですよ。


それと、研修中、唖然とするほど驚いたことがありました。店長がとある「香料」を持ってきて、調理したものを厨房の我々に食べさせてくれたのです。それは椎茸の石づきなのですが、全員が「めっちゃ美味しいマツタケだぁ!」となったのです。


実際はご存知マッタケではなく石づきにマツタケの香料をまぶして火を入れたものでした。香料は食材ベンダのサンプルとのことでした。


そのマツタケの香料を瓶のまま香りを確認しても、マツタケなんです。ということは市販品の「香料」と成分に書いてある内容はひょっとしたら凄く恐ろしいのかもしれません。本物と勘違いしているだけかもしれないのです。


そうこうありつつ、店舗研修は、自分には向いていないけど厨房作業だけは楽しくこなせました。お仕事には向き不向きがあるんだなとしみじみ自分で納得できた期間でした。


その後は情報システム部に尽力し、更に転職して違う会社で頑張っています。一方、飲食業界で働くのも、もしかすると楽しいかもしれないな。そう思っている僕でありました。

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