第5話

「雅久さん、おかえりなさい!!雨ひどいですね?!」






急ぎながら最後になってしまった雅久さんにタオルを渡した。しかし、無言のまま雅久さんはタオルを受け取らなかった。


不思議に思い首を傾げながら顔を見上げると、びしょ濡れの髪が美しい顔に張り付き、水気が肌に吸い込まれていた。


それを見た私は心配になり、再び雅久さんの瞳を探るように見つめる。






「雅久さん、風邪引いちゃいますよ?」






名前を呼んで見ても、何を考えているのか分からせないようにしているのか、一切瞳を揺らすことなく、ただ私を見据えているだけ。


え?どうしたんだろう……。






「あの、雅久さん……っ」






どうかしましたか?と尋ねようとしたとき、髪から流れ落ちた雫が雅久さんの頬を伝っていった。




それはまるで、






泣いているかのようだった。

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