第35話

「ん?また、泣いてるの?……泣き顔見せて」


「……」


「言うこと聞いて」






雅久さんの胸の暖かさがとても心地良くて大好きで暫くこのままが良かったけれど雅久さんの言葉に素直に従ってしまう。






「可愛いけど、俺以外の前で泣いたら許さないよ?」


「……私、滅多に泣いたりしないんですけど雅久さんといると自分の感情を上手く抑制できないんです。雅久さんがとても優しいから……」


「優しかったら誰でも泣くんだ?」


「そ、そうじゃないですけど、雅久さんと居ると泣き虫になっちゃいます。……でも、こんな風に温かい涙を流すのは初めてです。今までは冷たい涙しか流してこなかったので……」


「いいね、それ……それでいいんだよ椿」






雅久さんは薄く笑みを浮かべ真っ暗な瞳で私を見つめる。私はこの綺麗な瞳の奥に潜む甘い蜜に吸い寄せられ、中毒性のあるその味に酔いしれていった。

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