第21話

「はっ……」


 目を覚ましたらんかは、性急な動きで半身を起こした。寝台に寝かされていたらしく、上掛けが滑り落ちる。

 ぼんやりとしているらんかを孫雁が抱き締め、声をかけた。


「よかった……気づいたか」

「陛下……?」


 切々とした彼の声には、安堵が滲んでいた。孫雁がらんかのことをそこまで心配してくれていたことに驚く。彼はそっとこちらの身体を解放して尋ねた。


「気分はどうだ?」


 辺りを見渡すと、そこは彼の寝所だった。


「医官をすぐに呼ぼう」

「平気です。なんともありませんから。それより、私のこと……心配してくださったんですね。嬉しい……」


 あっけらかんと微笑むと、彼は肩を竦める。


「……自分でもよく分からない。お前が二度と目を覚まさなかったらと思うと、胸が張り裂けそうだった」


 彼は樹蘭を失ったばかりで、身近な人を失うことに恐怖心があるのかもしれない。孫雁が心にかけていてくれたことで、胸の奥が暖かくなる。夢の中では散々樹蘭に嫉妬していたのに。


(やっぱり私、陛下のことが好きなんだわ。これ以上は自分の気持ちを偽れない)


 孫雁の心の片隅に、ほんの少しでも自分の存在がいて、ほんの少しでも必要とされていたららんかは満足だ。


「大丈夫。私は強くてしぶといので、簡単にいなくなったりしませんよ」

「そうだな。お前はそういう奴だったな」


 孫雁は小さく微笑みを浮かべた。

 それかららんかは、鏡に吸い込まれたあとの夢の中で、樹蘭と孫雁が出てきたのだと説明する。


「この術で本人以外が召喚されたのは異例だ。だから、呼ばれなかった本物の樹蘭の魂とお前の魂に、鏡が反応を起こしたのかもしれないな」

「…………」


 お前が見たのは樹蘭の記憶だろう、と彼は付け加える。

 らんかはそっと額を手で押さえた。


(私が樹蘭様の代わりにここに来た意味って……なんなんだろう)

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