マネーロンダリング

レイジ

第1話 ゲット イット ダウン

中国の春秋にこういう記述がある。貴賤に依らず人の身にも四季ぞある。青春に若く立ち、朱夏に覇気に満ち、白秋に老いに落ち、その身命も堕ちて玄冬となる


人間は、金持ちも貧乏にも人生に四季のようなものがある。青春時代に若さを発揮し、燃えるような熱い成人時代を生き、晩年の落着きは真っ白な清潔さを、そして、人生の終わりには様々な色が混ざり、黒く見えるのだという。そんな逸話だったと思う。


今、仕事を辞めて、故郷の伊万里に帰省している。山と海に囲まれた何もない町。半導体工場の裏の海が懐かしい。よくバイクで走りに来ていた。まさに朱夏の時代だった。


これからなにをしよう。もう介護していた親もいない。別に以前のすみかである横浜に戻ってもよい。いっそ大きなことをしたい。今まで親に縛られていたから。天国の親がぶった曲げることをしてやろうか。


大学をでてからもう10年か。理工学部の無機物反応学科だった。ポリテクという、シリコンウエハースの研究だった。ようするに半導体の材料だ。以前は右肩上がりの業態だったが、今は韓国の安価商品に押されている。


もう半導体の業種には戻りたくない。もともと無機物ではなく、有機物をやりたかったんだ。それこそ白衣を着て、フラスコを振りながら反応時間の待ちを教授や研究仲間とコーヒーでも飲みながら未来を語りあうことをしたかったのに。どうしてこうなっちまった。


いや、遅くはないのか。これからこれから。もう35歳で独身だが。あれっ。人生詰んでないか?おれ。


これまでの退屈な人生をゲットイットバックするために何かないか模索した。ちょうどNHKの朝の番組があっている。なになに。覚せい剤の取引がXでさかんになっているとな。それも隠語で「手押し」という単語で検索させて、裏社会を通さず個人間で取引するらしい。


物騒だな。まてよ。大学時代、有機系の研究をしている級友が言っていた。この大学にまつわる都市伝説を。


ある有機化学の大学院生が、おもしろ半分で研究室の実験室で覚せい剤を精製したらしい。専門家が作っただけあって、とんでもなく純粋なアンフェタミンだったらしい。制度が99.9パーセントだったとか。もちろん好奇心で作ったものだったが、ある学生が闇に流してしまった。もちろんとんでもない純度の高い覚醒剤である。たちまち闇社会で話題になり、その学生はヤクザに拉致されたとか、なんとか。


よくある話だし、そんな海外ドラマがあったようなきがする。覚せい剤を精製する。実験室レベルで。個人で。ぶっとんでる。面白い。


覚せい剤を精製か。うーん。できなくもないかもしれない。でも超えるべき障壁は大きいな。精製するにあたって、まず問題なのはクリーンベンチがないことだ。あれがないと、有害なガスをすいこんでしまう。それに周辺に特有の刺激臭をまき散らすだろう。


精製だけではない。逮捕されるリスクが高すぎる。覚せい剤の製造、販売はとんでもなく重罪ではなかったか?まず素人が手をだせるものではない。


発想の転換が必要だな。大麻ならどうだろう。自分が売人になると覚せい剤と同じなのだろうか。わからない。あとで調べてみよう。大麻は元が植物だし、加工して純度を高めるのもなんか、料理の延長みたいで、俺でもできるかも。すくなくともエフェドリンから手に入れる必要のある覚せい剤より簡単かも。よく知らないけども。まあ、空想するのは自由だ。


俺は大学時代の先輩からこう教えられた。


「よい研究をしたい時には、まずアイデアをできるだけ大きくもつことだ。そんなのできっこない!てくらいに。そこをまずは目指してみる。そこで試行錯誤していくうちにまあ、そこそこのとこに落ち着く。それがいい研究をするこつさ。そこそこをめざしても、クズな研究にしかならないぞ」


そういうことだ。目指すは大きく。おれは大麻の精製、製造をやる。化学の力を使ってプラントレベルの純度で!しかも一切警察に捕まらないように。素人だからこそできることがあると思うんだ。


まずはなぜ捕まるか考えてみた。いきなり弁護士に相談したり、サイトを漁ったりしない。想像してみる。


考えるに、売人が捕まるケースって結局、警察にタレコまれたり、捕まったヤツがげろったりするからではないだろうか?いくら優良で、こちらに好意を持っている客でも、やはり逮捕なんてされたら自分がかわいいだろう。そう言う客からとか、単純に同業からとか、もっと単純にトラブった客からとか。


人目に付く限りリスクは避けられない。売人はやはり厳しいか。それならば卸売り業者はどうだろう。精製からパッケージまで自分でするが、販売は任せる。しかし、これならば人との接触は減るが付き合いは深くなる分値段でもめたり新たなトラブルが増えそうだ。


いきなり厳しいな。やはり絶対安全な麻薬ビジネスなんてないか。でもどうだろう。ここまでネットが蔓延しているなか、うまくやっている奴も多いのでは。だからこそ毎日のように報道で流れているとは考えられないか。「おまえらこういう事はいつkか捕まるんだぞ」と。


そうなると、ネットの地獄の一丁目のダークウェブに手をだすとか。架空口座や違法薬物販売、麻薬の販売に関して必要なものはとりそろっているのでは?安全性については、怖いことばかりだが、秘匿性つまりバレないということに関してはまだ信用できるか?例えば、アメリカのネットバンキングでダークウェブを使用して荒稼ぎしたものは結局逮捕されたが警察は、ネットワークのシステム経由で逮捕はできなかった。そういうことだ。もはやネットは警察でさえ完全に網羅できるものではなくなった。人との繋がりを極端に減らす。それが成功のカギだ!

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