桜祭

第1話

広い池にはいくつもの波紋が浮かんでいた。やってきた身なりのいい少年は池を見て悲鳴を上げた。少年はひっくり返るように腰を抜かす。少年の視線の先では水面にうつぶせの男性が浮いていた。一目で死んでいると分かる有様だった。少年は立ち上がって逃げようとして自分の手元を見た。


「うわあああっ」


 少年の手元から少し離れた木陰に片目がつぶれたトカゲがいた。トカゲはじっと少年を見つめていた。

頭を抱えてうずくまり、少年はうわごとのようにつぶやく。


「許してくれ、許してくれ……!」


 トカゲはその胸中を明かさぬまま、さかさかと茂みに消えていった。

それは電線やビルなどのない遠い昔、静かな村のとある朝の出来事だった。物語はそれから数百年を経てから始まる。

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