第20話
side:笠原光
夏休みが終わっても、夏まで終わる訳ではない。日差しはいまだ燦々と照りつけて、容赦なく俺たちの気力を奪ってくる。
ということでプール。
プールもそろそろシーズン終わりではあるけど、俺が選んだ施設にはまだ、かなりの賑わいがあった。夏休み中の状況は知らないけど、ファミリー層はいくらか割合少なくなったって感じなんかねぇ。大学生か社会人っぽい雰囲気のお姉さんがちらほらと見える。
いいよなぁ年上。俺自身がもうちょっと年食ったら年下もありになるのかも知れないけど、今は断然年上派だわ。色んな経験が豊富で、なおかつ出るとこ出てるお姉さんに翻弄されてぇ。
あとで声かけにいくか。
「すみません、お待たせしたようで」
そんなことを考えていたら、年上セクシーお姉さんの対義語がやっと更衣室から出て来た。
「お、いいねぇ。かわいい~」
目に入って、条件反射的に声をかけてから、まあ似合っていなくはないと、あらためて確認した。ひらひら揺れる布がついた上と、夏っぽい柄の入ったパンツスカート。最初は面白くもねぇ競泳水着みたいなの選ぼうとしてた気がするけど、祐希と敬司が口出したおかげか、ちゃんと腹が見えている。
谷間はほぼない。
つーかこいつ、ガリッガリなんだよな。最近はちょいマシにはなって来ているけど、初めて会った三月頃は酷かった。枯れ木じみていた。たぶん全員に共感してもらえると思うんだけど、こいつに「ご飯はちゃんと食べた方がいいですよ」とか言われるの本当に納得いかなかった。
なお、俺のせっかくの褒め言葉に、褒められた当人は困ったような顔をしている。
「よくもまあ、さらっとそういうことを言えますね……」
「サヤちゃんこそ、水着買ってもらった身分でよくもまあ生意気な口をきけるねぇ」
「本気の感心ですよ。ありがとうございます、交通費とかも……色々と。今日は頭が上がりません」
「頭上げていいから俺らの卒業までに返せ」
「卒業後まで待ってください……」
「まあ、ほとんど僕が出したんだけど」
サヤちゃんからのじとっとした視線を無視する。
「小野寺先輩、ありがとうございます! この恩は必ずやお返しします」
「別にいいよ。水着買えないからって留守番させる方が心苦しいし……」
「すみません……。祐希くんも選んでくれてありがとう。自分ではこういうのは買わないから、大分照れたけど……かわいいの着ると気分上がるね」
「そうでしょ? 前から思ってたんだけど、サヤカ、普段着も黒とか白とか面白系のシャツばっかりじゃなくて、もっとかわいい系の服着なよ。今日のも似合ってるし」
「んー、でもあれ、せっかく咲坂くんのお母さんにもらった分だからなぁ」
「サヤさん。祐希は、サヤさんの服が敬司の趣味に――」
「シュートくん黙って」
「で、あと二人は? まだ更衣室?」
気まずい空気が流れた。
「ケージくんは「待ってらんねえ」って先にどこか行った。ムラサキは……まあ、うん」
「近くにはいるんじゃない?」
敬司はともかく、紫純の方はいる。確実に、サヤちゃんが見える範囲には。
「サヤちゃん、あいつを見かけても自分からは近づかずに、相手から近づいてくるのを待つようにしてね。あと目を合わせず激しい動きをせず、大きい音を立てないように」
「野良猫と仲良くなるコツですか?」
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