第1話

中原くん、今日もかっこいい。

机に突っ伏し寝たふりをしながら、斜め前にいる中原くんをみる。

いつものように友達と喋っている。

笑う姿もいい。

見惚れてしまう。

―今でも思う。

なんで、あのとき『好き』って伝えなかったんだろうって。

後悔先に立たずということだ。

しかし、本当に眠たくなってきた。

うつらうつら。

まぶたが落ちてくる。

その時、友達茜が

「ねぇ、花ちゃん起きてー」

と私の体を揺すった。

「う〜ん…」

唸りながら、頭を持ち上げる。

「花ちゃん、そろそろ予鈴がなるから行こう」

そういう茜の手には、美術道具があった。

眠い目をこすりながら、席を立ちロッカーから美術道具を出す。

「ねぇ、花ちゃん聞いて。私昨日ことがあったんだ―」

茜の話を聞きながら美術室に行った。

約十分、おしゃべりをしているといつの間にか本鈴がなり先生が来た。

「はい、今日は前回の続きをします。それでは、各自始めてください」

その声を合図に皆話しながら、課題である【夏の生き物】を描き始めた。

私はイスを反対に向け、茜の席でカエルを描く。

ちなみに、茜は蝉だ。

「ねぇ、花ちゃん」

「ん?なに?」

「花ちゃんって、中原くんのこと好きなんでしょ」

だんだん声を小さくしながら聞いてきた。

「っ。好きじゃないよ‥うん」

嘘をついた。理由は、茶化されそうだったから。


本当は好きだよ!もう。


「そうなんだ。―せっかくいい情報持ってたのにな」

ペンをくるくる回しながら言う。


いい情報?…それってなに?気になる。


「茜、いい情報ってなに?」

手を止めず、絵に集中して聞く。

「えっ、中原くんのこと好きじゃないんだよね。聞く意味ある?」


くっ、素直に言っておけばよかった。


続けて、

「本当はす「あぁー、もう!」

好きなんだと言おうとした茜の口を押さえ、耳打ちする。

『好きだよ。だから、誰にも言わないで。後、いい情報教えて』

っと。

茜の口角が上がった気がする。

にまっとしながら、同じことをする。 

『へぇー、そうなんだ。以外』


なんだ、以外とは。こちとら、中学の時から好きだったんだよ。


『早く、教えて』

『はいはい、来月にねバトミントン部で校内1年生大会があるんだ。中原くんそれに出るんだって』 

『そうなんだ。ありがとう』

『この際に、告ちゃいなよ』

『―なんでよ!』

体が熱くなってきた。

まだ、するとは決めてないのに。

『えっ、いい機会でしょ。お守りなんか作ってさ、頑張ってと応援して告白したらいい感じじゃん』

『やらないよ!』

きっぱり言い切り、再び絵を描き始めた。

「えー、面白そうなのに…」


そして、放課後

足早に被服室へ行き、手芸道具とフェルトを取り第二体育館裏にあるベンチに座った。

「部活、緩くてよかった」

さっき、顧問とすれ違ったが、

「今日は、外で裁縫するんだね。忘れ物しないでしなよ」

と言われた。

「いやー、本当によかった」

さて、縫おう。

刺繍枠に布をセットし、針に糸を通し無心で縫い始めた。

「あれ?秋元」

「中原くん?」

一通り終わり、片付けをしていた時中原くんに声をかけられた。

「うん。なんでここにいるんだ?ここ、あんまり日がないぞ」

空を見上げながら、話す。

「他にベンチに空いてなかったから」

「そうなんだ。―なぁ、なにしてたんだ?」

「この布に飾り付けしてた」

そう言って、折り畳んだ布を広げる。

花の刺繍をしている。

「綺麗だな」

「‥ありがとう」

「もうこれで完成なのか?」

「ううん、まだ。後ここだけ」

右端を指す。

「そうか、頑張れよ」

「うん。中原くんも、頑張って」

中原くんは背を向け、体育館へ走っていった。

「…緊張した」

もう中原くんはいないのにまだドキドキしている。

「…今のタイミングで告ればよかったかな?」

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四季恋々 君に恋々 ころこね @konene

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