第15話 無謀な計略③
燕は視界の中ですぐに小さくなって、リアンは身体が麻痺したまま海に向かって落ちた。
合同演習中で、領界の近くを飛行していたのが幸いした。下が地上でないなら、落ちても竜の身体なら叩きつけられても死ぬことはない。しかし麻痺したままでは泳げないから、どちらにしろ生き残るのは難しいかもしれない。
そうどこか冷静な気持ちで落下しながら、しかしせめて知らせなければならないと思った。
知らせなければ。
海蛇に、せめて戦艦が狙われているという危機だけでも。
そう思ったとき、海面に叩きつけられるようにして海に落ちた。
全身を強打されるような衝撃と激痛が走り、息が止まった。多分骨が何本か砕けた。
水に沈み、まだ身体が動かないまま必死で考える。どうにかして海蛇に、海竜に危険を伝える方法がないか。水の中で息を止め、日の光を反射して揺らめく海面がだんだん遠くなっていくのを眺めながら、頭の中で方法を探す。何の因果か、自分はまた海の中でピンチではないか。そう思ったとき、この前密輸船の上でヴァルハルトに言われたことを思い出した。
海竜は、超音波を拾える。
人間には聞き取れない周波の音を、竜は聞き分けることができる。リアンにもあの生き物が出した音を聞くことはできた。竜にもそれに近い音波は出せるのだろうか。たとえば、竜の咆哮を使えば。飛竜の咆哮は、それ自体は竜の鳴き声ともとれる。咆哮を発するとき、喉頭の筋肉を収縮させて音を振動させれば、もしかしたら音波を伝えることが可能かもしれない。水の中なら、高音の音波は空気中よりも早く進む。
どちらにしろ、自分は身体が硬直して泳げないからこのまま沈むしかない。それでも竜印の力を絞り出せば、一度きりなら竜の咆哮を出すことはきっとできる。
言葉になって伝えることができるかはわからないが、怪しい音波が海に流れてくれば、海竜の一体くらいは異変に気づくかもしれない。
海蛇がいる方角は、あっちだろうか。
麻痺していた身体が多少緩まってきたのを感じたリアンはなんとか水の流れを使って四肢を傾けて、自分の中の竜印の力をありったけかき集めて引き出した。
咆哮する。
喉を開けて筋肉を収縮させた。
放った直後、一瞬海の水は割れて波打ったが、そのままなどということはもちろんなく、すぐにまた水に巻かれた。
敵襲。
警告。
空軍の略符号で発したが、海の中を届くかどうかはわからない。
でも届いてくれ。
海蛇に。
――ヴァルハルトに。
そう思ったきり、リアンの記憶はそこで途切れた。
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