第一章 王女
貞操観念逆転世界
「……なんでこいつなんかに」
きれいな銀髪に黒と赤のオッドアイを持った齢五歳児……が、映った鏡の前で僕は項垂れていた。
先ほどベットの段差で躓き、転倒。
その衝撃で何故か、地球と呼ばれる星で高校生として生きていた記憶を思い出した僕は、鏡が備え付けられているトイレで自分の姿を確認し、項垂れていた。
きれいな銀髪に黒と赤のオッドアイを持った目の前にいる少年。
そして、別に前世の記憶を思い出したからと言って、忘れてしまったわけではない今まで生きてきた記憶から察するに、僕が転生したのはノア・ラインハルトであると断言できる。
ノア・ラインハルト。
僕が油を被って死んでしまった、その直前にやっていたエロゲに登場する悪役の一人であり、ラインハルト男爵家の長男。
そして、最終的に主人公の手により、悪役として殺されるような運命にある男だ。
「まぁ……心配する必要は特にないかな」
主人公に殺される運命にある。
その事実は一見実に重いように見えるが、その未来さえわかっていればそれを避けるよう動くことなんてそこまで難しくない。
ただ、フラグとなるような行動を取らなければいいだけの話である。
「むしろ……」
問題なのはどちらかというと、この世界の、その在り方の方かもしれない。
「……エッグい世界なんだよなぁ、ここ」
エロゲの設定なんて、そのどれもがぶっ飛んでいるようなものである。
ここ、『孕多のハーレム』の世界は男女比が1:1000とかいう狂ったものになっており、それに伴って世界そのものも狂っている。
ありとあらゆる女性が男子学生以上の性欲を持っていると共に処女であることは恥。
女性の貞操観念がゆるゆるで、逆に男性の貞操観念がダイヤモンドぐらいカチカチ───そして、1000人に一人しか生まれない男というのは国家、ひいては人類の存続においてまさに宝とでも呼ぶべき存在である。
その存在は、ありとあらゆる者から常に守り続けられている。
だからこそ。
「おはようございます、ノア様」
僕の元には、生活支援の為に多くの人が派遣される。
それは国からであり、自分が生まれた家からだ。
「……っ!?」
朝、起きたばかり。
そんな僕の部屋にやってきたのは朝、毎日やってくることになっているメイドたち三人だった。
「今日も良い天気で───」
「にゅわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ」
自分たちへと近づいてくる三人のメイドを前にして、僕はただ悲鳴を上げ、一切迷うことなく窓を突き破って己の部屋からの逃亡を行うのだった。
「はっ……はっ……はっ……」
自室の窓を突き破り、そのまま逃亡を開始。
街の中を、街の建物の天井を飛んで進んでいく。
「……クソ」
そして、僕は一切の人気がない、街から外れたスラムと呼ばれるような場所へと転がり込んできた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
この世界で生まれた男児の生活。
それは多くの女性たち───その中でも、子宮を取り除かれ、膣も強引に目を覆いたくなるような方法で埋められた限られたメイドたちからありとあらゆる生活の保護を受け、蝶よ花よと育てられていくことになる。
「む、む、む、無理だぁぁぁぁぁぁぁ」
だが、そんな生活、僕に耐えられるわけもない……耐えられるはずもなかった。
その理由───。
ここまでの五年間で過ごしてきた『ノア』としての記憶は当然ある。
しかし、それ以上に前世での記憶と価値観が自分の中で大きくなってしまっている。
「……僕は陰キャコミュ障なんだよっ!!!」
───それは、実に簡単で、僕が少し、会話をするどころか接するだけで発狂してしまうほどのコミュ障だった。
「あばばばばば」
僕がこの世界で生きる上の最難関。
それは、過剰なまでの面倒を見てくるこの世界で、一人にさせてはくれない世界で僕がどうやって、他人とコミュニケーションを取るのかという問題だった。
「二次元しか勝たんっ!?」
エロゲは僕の大好物。
ハーレムも好きだし、エッチなのも好きだ。
ただし、それは二次元に限る。例え、二次元の世界であったとしても、ここが三次元世界になった瞬間駄目だ。作られて世界では、決められていた世界ではなくなってしまう。
「僕は二次元しかダメなのにっ!!!」
たった一人。
この世界のスラムで、僕は二次元への愛を叫び、三次元への恐怖を口にするのだった。
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