朋未の兄 祐樹編 第六章
「横浜行こうか」
その日、父さんは言った。
毎年、夏休みに旅行に連れて行ってくれる父さんは旧建築族の仲間である大手ゼネコンの祖父を父に持つ旧家の人だったが、旧家由来の伝統を嫌い、駆け落ち同然で母さんと結婚した。旧建築族とは大蔵省と太いパイプを持つ旧財閥系の企業グループで、GHQから帝国銀行の資産没収されても上海資産と香港財閥と関係を持ちながら財閥解体後も日本経済を牽引するグループだ。だから分社化しているとは言っても家電メーカーやコンビニメーカーが銀行業を運営できるんだ。本来そういった業態は銀行と明確に区別するのが健全なんだけど、銀行系が本体
であった商業部門の借金を肩代わりしたりしているから、欧米から日本は最も成功した社会主義国と呼ばれる。
それでもいくら無能な政府と政治家が君臨しようともこういった財閥由来の企業が君臨するから政府はいつまで立っても政治献金政治から逃れられないし、宗教法人が政党を組むようになる。
そういった批判が平成になってから疑問視されて、多額のお布施に疑問を感じた宗教二世や青年会が自分の属する宗教に疑問を感じて抗議したり、別の信者組織を創ったりしている。経済組は宗教にも固定資資産税を課すべきだという意見もあり、これは京都みたいに寺の多い都市が財政難なのに疑問を感じたこともある。ただこれには企業組の経済と消費者組の経済で差があり、企業組は宗教への課税を勧めていて、消費者組は消費税廃止と法人税の増額を勧めていて、その板挟みの政府は多数派の庶民と多額の献金の在る企業組で悩んでいる。
結果、企業側が強いのはその金額が大きいから、国民を敵にしても企業側の意見が強い。でも、民主党の政権交代からその派閥は絶対になり難く、結局、何も学べなかった自民党は解散させられた。
父さんは仙台から横浜へ向かう高速の途中、反対車線から中央分離帯を越えて無理な運転をして事故を起こしたスポーツカーに殺された。
後部座席に居た俺と妹は正面から衝突した親と違い、横転して何度か回転した車内でシートベルトに支えられるように逆さまになりながら、衝撃で気絶した。
親はエンジンルームを潰され、内臓圧迫で殺されていた。即死だと言う。
俺は朋美より先に目覚めた時、死んでいる両親を見た。口から血を吐き、眠るように死んでいる両親を眼に焼き付けていた。
親の死とショックで俺は吐いた。
ゲロの匂いが室内に充満して、また吐く。
そのまま救急隊が駆け付けるまで俺は一時間両親の死体と共にしていた。
朋美が目を覚まさなくて良かった。
俺だけが親の死を見ていた。
親の死体と一時間も過していた俺の心は書き換えられていた。全ての命を朋美の為に生きよう。朋美が全てだった。朋美の幸せこそ俺の幸せだった。
秋穂と出会うまで俺の家族は朋美だけだった。
俺の過去を知った秋穂は泣きながら俺を抱き締めた。
泣きながら俺は悪くない、そう言いながら俺を抱き締めた。それに俺はきっと初めて泣いたんだと思う。俺はようやく解放されたんだと思う。
両親の死を目の当たりにした呪から、両親を殺したあの男の呪いから、殺しておきながら死にやがったアイツから、怒りも悲しみも憎しみも後悔も何もかも行き場のなくなった俺の全ての感情が秋穂に救われた。
怒りと憎しみだけが俺の人生だった。その代償で朋美の幸せを願うようになった俺の心を溶かしたのは秋穂だった。
俺はまだ修羅になかった。
地獄から解放された俺は悲しみからようやく解放された。
それでも、しばらくは呪いの後遺症で無理をしていた。今にして思えば、もう少し秋穂と居たかったと思う。今更、無理な後悔だけど、生まれ変わるならまた秋穂に会いたい。
ごめんな秋穂………。
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