ファースト天使

@simizu_893

第1話 地に着くと書いて着地

私の家にインターホンが鳴り響く、誘われるようにドアを開けると、そこには天使が立っていた。

「やっほ〜!あなたがソウハちゃんだよね!」

なぜ知っている。そもそもこの娘は誰だ。どうして天使のコスプレなんかしてるんだ。というか陽気な人だ。

「違いますけど…人違いじゃないですか?」

もちろんこんなどっかの宗教画でみたような巨大な白翼と豆球程度の光を常に発している輪っかを頭上に浮かべている女の子は知り合いではなく、これから知り合うつもりすらゾウリムシの繊毛程もない。

「違くないよ〜昨日あなたのお母さんに会って聞いたもん。友達になったげてねぇっていって言われたもん」

「は?」は?

私のお母さんに会った?昨日?何故友達に?

「『は?』じゃないよぉ!昨日ソウハちゃん家にピンポン押したらお母さんが出てきて〜今うちの子高校行ってるからまた明日来てねって。というかその顔私が天使だってこと疑ってるでしょ!?」

情報量が多すぎる。昨日も私の家に来て、母親に会い私の名前を知り、友達になるように勧められた。しかも天使が。

確かに私の母はちょ〜っと楽観的過ぎるところがあるが、見ず知らずの天使を娘の友好関係の中に入れようとしてくるほどでは無かったはずだ。そもそも天使じゃなくてもやめてもらいたい。

「後でお母さんに確認するんでまた明日来てもらっていいですか?明日日曜で学校ないですし。一旦天使かどうかも保留にさせてください。」

今まで便宜上天使と呼んでいたが、よく見てみるとホントに羽が背中に有り、光の輪が浮いてる時点で少なくとも人間では無いように見える。ホントはコスプレだとしてもそこまで天使になろうと努力してるなら天使みたいなものなのかな。

「そんなに私の顔見てどうしたの?チワワのクソでも付いてる?一応さっき拭いてきたはずなんだけど」

よく分からないことを言っているが、顔はとにかく美人、大きい目、絹のような金色の髪、透き通った肌、というか本当に綺麗な肌だな…もしかしてノーメイク?使ってる化粧水とリンスだけ教えてもらってから帰ってもらうことにしよう。

「うーん...確かに急じゃ混乱しちゃうか!今日は帰るね!」

今日はと言わずに千代に八千代に帰り続けて欲しい。

「そうだ!忘れてた!ソウハにプレゼント!」

「え?ありがとうございます...それはどこに…」

私が言い切るのを待たず天使(仮称)の頭上の輪がより強く光った。

「なに!?眩しっ!」

瞳孔が閉じる前に塞いだ目を開けると天使が私に紙袋を差し出していた。急すぎて無駄に光らない分四次元ポケットより不便だな、ぐらいしか思いつかない。

「ホントはヤクルスの牙と迷ったんだけどこっちの方が美味しいかなって」

その言葉を流し聞きで紙袋を開けると中に入っていたのは八つ橋だった。

「八つ橋だ...」

「嫌だった?」

嫌では無いが天使に八つ橋を渡されてすぐ感謝を伝えられる程の順応性は私には無い。

「食べれば美味しいって分かるから!また明日ね!」

「ちょ!まっ!...」

急な別れの挨拶に対する私の停止要請を受け付けず、体が逆再生された砂時計のように空気に溶け込み消えた。

「マジ天使じゃん…」

取り残された私の思考が認識したのは視界に移る紙袋の中の八つ橋が明らかに誰かの食べかけであるということだけだった。

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