有毒ツインズ

霧江サネヒサ

有毒ツインズ

 殺し屋は、ターゲットに近付き、街の死角で首を捻り殺して、死体を、その場に設置されているポリバケツに隠した。後で、回収屋が取りに来る手筈である。

 仕事を首尾よく済ませた殺し屋、愛坂狂次あいさかきょうじは、黒い革手袋をした手で、黒いネクタイを緩めた。

 そして、近くのコンビニへ入る。

「いらっしゃいませー」と言った店員が、狂次の姿を見て、ぎょっとした。

 長い金髪を三つ編みにした、重たい前髪の下。白い包帯とガーゼにより、両目が完全に隠れている。しかし、男は、視界に問題はないように動いていた。

 それが不気味で、変質者というよりは、何かしらの怪異のよう。

 怪異のような男は、明太クリームうどんとコーヒー缶の支払いをし、退店した。

 そして、狂次は、自宅であるマンションの一室へ向かう。

 1313号室。つまりは、13階の一番エレベーターから遠い部屋。キーホルダーも何も着けていない鍵を取り出し、ドアを開けた。


「おかえり、きょーちゃん!」

「ただいま。何故ここにいるのですか? 慧三君」


 リビングの奥から、廊下を歩き、玄関まで来る男。長い金髪を緩く三つ編みにした、伏し目で丸眼鏡の彼は、愛坂慧三あいさかけいぞうという。狂次の双子の弟である。


「いやぁ、カノジョに追い出されちゃってさぁ」

「またですか」

「だから、泊めて! お願い!」

「はぁ。仕方ないですね」


 兄の狂次は、溜め息をつきながらも、無下には出来ない。


「晩ごはんは?」

「カップ麺食べたよー」


 狂次は、手洗いうがいと着替えを済ませて、食事をすることにした。


「いただきます」


 両手を合わせて一礼し、食べ始める。

 明太クリームうどんは、カロリーが高く、美味しい。食後は、コーヒー缶を一気に飲む。


「ごちそうさまでした」


 再び、両手を合わせて一礼した。

 兄が食事をしている間。慧三は、ソファーに寝転がってバラエティー番組を見ながら、スマートフォンで、何人もいる肉体関係のある女たちとメッセージをやり取りしていた。

 次は、どの女のヒモになろうかな?

 そんなことを考えながら。


「きょーちゃんさぁ、最近、仕事どう?」

「特に問題はありません」

「楽しい?」

「天職ですよ」

「そ」


 スマホの画面から目を離さず、兄と雑談をする慧三。

 食事の後片付けを終わらせてから、狂次はソファーへ行き、慧三の足元に浅く腰かける。

 そして、口を開いた。


「慧三君は、最近はどうですか? 趣味の方は?」

「順調。問題なし」

「前はそう言って、杜撰な隠蔽をして、私に迷惑をかけましたよね?」

「ごめんって言ったじゃん!」

「現代社会で死体を隠滅するのは、大変なことなのですよ?」

「はーい。反省してまーす」

「やれやれ」


 愛坂狂次。職業、殺し屋。趣味を訊かれたら「読書」と答えているが、それは嘘で、そんなものはない。

 愛坂慧三。職業、なし。無職なので、女にタカり、ギャンブルをして生活をしている。趣味は、殺人。

 東京の街に紛れた、人殺しの双子の兄弟。

 これは、ふたりの日常の一頁である。

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