幽霊なのに朝に出るな

森林火林

第1話 皿の怪談

秋連しゅうれん、今日からお前が家業を継ぐんだ。」


 高校に入学した日の夜、俺は兄貴にそう告げられた。


 俺の家、つまりは立花家は幽霊退治を生業としている家系だ。

 ご先祖様が大層な剣士だったらしく今でもその刀が祀られていて、刀との適合率が高い者が家業を継ぐ習わしとなっている。

 まあそうは言っても子供には任せられないので早くても学校を卒業してから継ぐ様になっていたのだが、俺の適合率が半端なく高かったみたいで義務教育が終わったこの段階で継ぐことになってしまった。



「気を付けろよ。兄ちゃんこの2年間、かなーり大変だったからなぁ。ま、大体幽霊ってのは夜に出るもんだし学校との両立は大丈夫だろ。お前は俺より強いし戦いに関して言えることはない。頑張れよ、秋連。」


 正直に言えばかなり面倒くさい。

 だけどいつか継ぐ事は分かってたし、俺より適合率の低い兄貴をいつまでも危険な仕事につかせるのも悪い気がする。


(うーん…ま、いっか)


 そんな軽い気持ちで俺は家業を引き受けることにした。


「心配しないでも大丈夫だよ。兄貴の仕事は俺がちゃんと引き継ぐから。兄貴は都会にでも行って結婚相手でも探して来なよ。」


「言ったな、このー!今に見てろよ。ビックリするくらい美人の奥さん連れて来てやるからなーー!!」



 こうして家宝の刀と共に当主及びに家業の全てを引き継いで兄貴は実家を出て行った。


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 あれから1年。

 俺は軽い気持ちで家業を引き受けた事を後悔していた。


『いちまーい、にまーい………』


 井戸の近くで女が皿の枚数を数えている。


 これはあれだな。

 有名な怪談話の皿屋敷さらやしきとかいうやつだ。

 このまま枚数を数えて、確か最後の10枚目が足りないんだったよな。

 あれ?これって最後まで聞くと駄目なんだっけ?


 そんな事を呑気に考えている間にも次々と数えられ、いつの間にか最後の10枚目に突入していた。


『きゅうまーい……あれ?一枚足りない…』


(そろそろ来るか?)


 警戒心を強め、家宝の刀を竹刀袋から取り出す。


(迎撃準備は完了。さあ、いつでも来い!!)


 刀を抜こうとしたその時だった。


『一枚足りない……一枚……私のお皿……どこ?……どこ?』


 女の幽霊は泣き出してしまった。

 いや、正確に言うなら後ろ姿しか見えてないから泣いているかどうかは分からないんだけれども、なんか背中が震えているし何処となく困ってそうな感じもする。


(はぁ…またこのパターンかよ)


 俺は刀を竹刀袋に納めて、幽霊の隣に腰を下ろした。


「どんな皿だ?俺も一緒に探してやるから見つかったら成仏してくれよ。」


『……うん。わかった。お兄さんありがとう。』


 皿を探しながら腕時計を見る。

 時刻は現在午前9:15分。

 もう遅刻は確定している。


(はぁ…こいつが悪霊なら斬って捨てればそれでお終いなのになぁ)




 立花秋連たちばなしゅうれん、16歳、高校2年生

 成績は下の下、友達は0、遅刻の常習犯

 目下の悩みは『何故か幽霊が朝に出て来るせいで学校との両立が出来ない事』だ。

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