第一章 天女の子
第2話
気持ちのよい風が吹き抜ける初夏の午後、鄙びた山里に一人の行商人がやってきた。
「ふうー、おいしいね、ここのお茶はいつも」
重い荷物を下ろしてくつろぐ商人に、里長の家のおかみさんが笑って茶菓子を出した。
「ほんにいつも遠いとこをありがたいよ。ゆっくりしてって」
「ありがとう。どうです、最近の里の様子は」
「なんだかねぇ、相変わらずではあるんだけど。どこかきな臭い話も広まっていてねぇ」
おかみさんのため息に、商人は顔を上げる。
「ほお、それはまたどうして」
「町で聞いてはいないかい?なんだか、怪しげな軍人たちがこの辺を嗅ぎまわってるとか…」
「さあねえ、俺は聞いてないけれど。まあ、下々にはわからないこともあるからねぇ」
「かあさぁん…」
二人がため息をついたとき、ふすまが開いて寝間着姿の一人の少女がやってきた。
「おや、どうしたのユリ。目が覚めたのかい?どれ、熱は下がったかい」
おかみさんは少女の額に手を当てると、ぱっとしない顔をして少女を膝に座らせる。
「うーん、なかなか下がらないね。今回は長いねぇ」
「どうした、ユリちゃん。お熱かい」
「あー、おじちゃん、こんにちはー」
「こんにちは。ますますきれいになってきたねぇ。お母さんにそっくりの別嬪さんだ」
「ほんとうー?」
「そうとも。真っ直ぐな銀色の髪は絹糸みたいだし、深い藍色の瞳は夜空になる一歩手前の空みたいだ。もちろん顔立ちもかわいいしね」
そう言って行商人が頭をなでると、青ざめた顔で少女は嬉しそうな顔をした。確かに少女は美しかった。まだ六つか七つほどだが、白い肌に整った顔立ちは将来美人になることを予感させる。
「どれ、ユリちゃんは大きくなったら何になりたいんだい」
「んっとねー、お嫁さん!」
「ほうお、誰のお嫁さんになりたいんだい?」
「えー。えっとねー、えっとねー、ふふふ、秘密!」
頬を染めて笑うユリの頭を、行商人は笑ってなでてやる。
「なんだ、教えてくれないのか。小さくても女の子だねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます