永遠の命

みんQ

第1話

 安政六年五月二十七日。西暦で言えば、1859年6月27日。


 その日は、押し出すような嵐と、針のような雨が同時に叩きつけていた(日本全国でこの日、豪雨だったのは伊勢いせだけだから、おそらく、そのあたりの話だろう)。


 ──そして、そんな天候の中、ぼろぼろの消炭けしずみ色の長着を腰紐で留めた、ふたりの少年が、肩をくっつけるようにして、川べりに立っていた。


 その川は激しい雨によって土石流と化し、濁った水を猛り狂わせていた。


 退路のない少年たちの前には、濡れそぼった袴姿の老人が、ひとひらの刀を握って立ち、道を閉ざしていた。


「やっと追いついたぞ……あまり年寄りを走らせるな。私はホラー映画の殺人鬼のように神出鬼没でも、無尽蔵むじんぞうの体力があるわけでもないのだ」


 老人──寺山士門は枯れた声でつぶやきながら、その少年たちを凝視した。

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