人を呪わば冒険ふたつ

神原 暁

プロローグ「道連れ」



「人を呪わば穴ふたつ」という言葉をご存知だろうか。

これは私……いや僕が呪った人を道連れにして異世界転生した前提での物語のような非小説であり、全くのフィクションである。

実在の人物や団体とは全くもって関係がないことを留意してほしい。


あの日までの私は、ただのアルバイターだったのだ。

中学を卒業したもののそれまでの間の陰湿な人間関係に嫌気がさし、ずっと引きこもっていたが、部屋の前で母は泣きながら言う。

「お願い、花……!!あなたがつらかったことは知っているの、だから部屋に出てもう一度お母さんとしっかり話しあいましょ。」

母とは、もう何年も会話していなかった。ぎこちない言葉をリビングで紡ぎながら、母と話し合った。

結果的には昼間勤務のコンビニアルバイトを始めた。

私は、あいつを呪うまでは花と言う名前だった。

辻野 花、それが私の名前だった。


さて、私が引きこもるまでの経緯を話そうか。

私は中学へ入学してすぐに、小学生の時の振る舞いが原因でいじめの標的となった。

殴る蹴るとか上履きを隠すとか直接的なものではなく噂を流して孤立させ、仲のいい友達ができたとしても自分たちの仲間へ引き入れていじめに加担させるというもの。

私の心はポッキリと折れた。

なぜなら、小学生の時の振る舞いを隠して学生生活をやり直したくて中学では真面目にやっていこうと思ったのに、同じ小学校から入学した者のほとんどは私をよく思っていなかったからだ。


中学2年生のある日のこと。帰宅後、糸が切れたようにベッドに倒れ込んだ私はそのまま眠りに落ちた。

ここ最近はぼんやりとしていて、考えが浮かんだとしても嫌なことばかりだ。


そして、今の今まで引きこもり続けた。


母と話し合い家から徒歩15分のコンビニアルバイトの面接を受け、ちょうど人手不足だったらしいので面接直後に採用通知を受けた。


まだ私は18歳にもなっていない。

法律的には夜勤ができないが、高校に入学していないので勉強に追われることなく昼間の勤務ができる。

何もかもがうまくいきすぎて、少し不安になった。


アルバイトを始めて半年が経った頃、ちょうど昼時に1人の女子高校生が入店した。

ギャル風の格好で、化粧も少しばかり濃かったが……。

ひと目でわかった、丹沢 詩乃だ。

あいつは私をいじめた主犯格で、かなり性格が捻じ曲がっていた。

それなのにも関わらず、気に入った人間の前では「いい子」をしてやり通してきたのだ。


詩乃は、カゴの中にお菓子と昼食であろう菓子パンを入れて私が立つレジの前に来た。

「あれっ?花ちゃん?久しぶりぃ〜!元気してた?学校来なくなった時、すごく心配してたんだぁ〜!プリントを届けに行った時、お母さんに聞いても答えてくれなくってさぁ…なんかあったの?」

まったく、この女はよく喋る。

いつもそうだ、大人たちの前では私の友達を装う。

私は爆発しそうな感情を抑え平常心に見せかけながら、「ううん、何にもないよ。ちょっと風邪を拗らせちゃってさ、それが長引いたんだ。」と答えた。

「800円になります。」

会計を終え、詩乃は帰り際にボソッと私に言う。

「あの時のこと…まだ恨んでるの……?謝りたいから、××公園の〇〇広場の噴水前で待ち合わせしてほしいな。」

そして、顔を曇らせたまま私に紙切れを握らせた。

「好きな日時をこのSNSのIDに伝えて。……行きたくなかったら一言でもいいから断ってほしいの。」

そして、詩乃は「じゃ!また来るね!」と元気そうに言って店を出た。


これは、復讐のチャンスなのかもしれない。


普通に刺したり殴ったりするのは勿体無い、呪ってしまおう。

私は帰宅後に詩乃のSNSアカウントをフォローし何気ない会話を交わしつつ、呪いの方法を調べていた。

蠱毒、ブードゥー人形、サタンに相手の不幸を願う………あまりに多岐にわたるが、私は蠱毒を使うことにした。

幸い今は8月の初頭、毒蟲なんぞ雑木林に立ち入ればたくさん居るだろう。

だが、100匹も集める必要がある。

私は2ヶ月後の10月3日を待ち合わせ日として都合を合わせられないか詩乃へ連絡した。


「うん!いいよ〜!花ちゃんがそう言ってくれてよかった!じゃ!」と返信が来たが、画面の向こうの私の歪んだ笑みなんて彼女は知らないだろう。


そして、20XX年10月3日。

その日が来た。

私は、100匹の毒蟲を喰い争わせて最後に生き残った1匹……苦労して捕まえたアオダイショウを自分流で祀りあげ、丁寧に解体してすり潰して作った粉末を用意した。

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