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黒い翼

第1話

薄暗い山の頂上に生える大きな木の上から、朝日を待つ黒い影。


 山の間から太陽が現れると、辺りも目を覚ましたように木立から白い霧が立ち昇る。


 あっという間に大きな木よりもずっと上に太陽が昇ると黒い影を照らしだす。



「今日も修行か……俺のとこの乾[イヌイ]さんはクソ真面目で嫌になるぜ! 毎日、滝に打たれるなんざ正気の沙汰とは思えない」


「それなら、うちだって負けてない。毎日、山登りだぜ! 立派な羽があるってのに歩いて登る意味がわかんねえ」


「その点、お前のとこの右京さんはいいよなぁ」



 照らしだされた幾つもの黒い影は一番高い位置に留まっている烏の姿を見上げた。



「なんだよ……おっ、俺だって毎日大変だぞ! わけの分からない本や巻物を運んだり、酒を飲んでるときに話し相手になったり……」


「ははっ! そんなのはちょっとしたお手伝いじゃないか」



 歯切れ悪く言い返すと、留まっている枝の周りに下から烏達が笑いながら飛び集まってきて枝を揺らす。


 こんなときはいつだって、右京のせいで肩身が狭い思いをするのだと周りの烏達に揶揄われる苛立ちと相まってさらに烏の怒りを増長させる。

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