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第14話

無言で穴を掘る。

 山の地層が硬いのか、思ったように掘り進まない。



 穴掘りに一時間以上はかかると予想していたが、この全身を襲う疲労は想像以上だ。





「疲れた……もういいんじゃないの?」



「いや、まだ深さが足りない」





 だからといって、手を抜くわけにはいかない。死体が出てしまえば、すべて終わり。



 穴の幅が狭いため深さが出てきたところで、交代で掘り進むことにした。




 優司はいま休憩中。




 文句を言うのはせめて、自分が穴を掘っている時にして欲しい。



 俺は硬い地面にシャベルを突き立ててTシャツの袖で汗を拭う。Tシャツもぐっしょりと汗で濡れ、泥まみれになっていた。





「休もう。脱水症状になるよ」





 優司はシャベルの入っていたボストンバックから500mlのペットボトルを出して俺に投げ渡す。



 緊張で喉の乾きすら忘れていた。受け取った水を見れば酷く喉が乾いていることに気づき、ペットボトルに口をつけた。



 半分近くまで飲んでキャップを閉めて優司に投げ返すと俺と同じように残った水を飲み干す。





「生き返る! もう、本当に疲れたから穴掘りやめない?」



「ふざけんなよ! お前は昔からそうだ……」





 優司を睨みつけるが正直、俺も体力の限界が近い。穴から出て座り込んだ。





 ――何をやってるんだろう。





 今頃、エアコンのきく部屋で勉強しているはずだった。現実は墓穴を掘っている。



 虚ろな目でスーツケースに視線を落とす。死後硬直がはじまり、もう腐りはじめているだろうか?




 そんなことを考えると、胃から何かが込み上げてくる。




 俺は茂みに駆け寄り吐き出し、汚れきったTシャツで口元を拭く。





「大丈夫? 熱中症じゃないの?」



「あぁ……平気」





 的外れな心配。俺は茂みの側にあったチロの墓石を見る。釘で彫りつけた文字がまだ読み取れた。



 今、埋めようとしているのは猫ではない。人間だ。涙を流しそうになる自分をなんとか我慢する。





「幸平、具合悪いみたいだから交代する。休んでなよ」





 後ろから声が聞こえ振り返ると、優司が穴に入って土を掘りはじめていた。



 大きく息を吐いて戻ろうとしたとき、茂みの中にチロの墓石に似たものを見つける。




 なにかに呼ばれるように石へ近づき俺は凍りついた。

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