埋めたモノ、
1
第1話
平々凡々。
そんな言葉が一番似合う俺は、休みも惜しんで部屋にこもり勉強をしている。
平凡な奴は何かを犠牲にして、努力を重ねるしかないのだ。
眼鏡を外して伸びをすると窓の外が目に入り溜息が出た。
「気分転換に散歩に出るか……」
部屋を出て階段を下り玄関のドアを開けると、刺すような日差しに目を細める。
砂漠にでも出たような熱気に目眩を起こしそうになる。
夏休みが始まりハメを外して遊ぶ。バイトに勤しむ。どれも俺の脳裏をかすめたが、全て振り払った。
理由は簡単。平凡だから。
大学受験に向けて平凡な俺が今我慢せずに遊びやバイトに走れば結果は目に見えている。
だが、道ですれ違う楽しげなカップルを見ると、何かがプツリと切れてしまいそうになる。
「おーい。幸平[コウヘイ]何やってんだよ!」
後ろから、よく知っている声が聞こえ振り返る。幼馴染とその彼女の姿が目に入る。
「なにやってんの? 勉強は休み?」
女を連れ、俺を小馬鹿にしたように話す幼馴染。俺と共通する部分は性別と身長ぐらいで、後は全てが優れている。
「気分転換に散歩してんだよ。優司[ユウジ]はデートか?」
「璃子[リコ]と市民プール行ってきたんだよね。幸平もくればよかったのに」
隣にいる清楚で小柄な女の子に笑いかけながら答える。
そうだ、あと一つだけ優司と共通する事が合った。
――女の趣味だ。
いつの頃からか必ず俺が好きになる女の子は優司の彼女になっている。
そう、この璃子も。同じ高校で良いなと思っていたらいつの間にか優司の彼女だ。
「たまに運動すると頭がすっきりして、凄く勉強がはかどるよ。今度は一緒に行こう」
璃子が優しく笑って誘ってくれるが、カップルの間に入って遊べるほど俺の心は丈夫にできていない。
「ありがとう。俺もう少し散歩してから帰るから、じゃあな」
「おー。迷子になるなよー」
人の気も知らず二人は笑顔で手を振って俺を見送る。炎天下の中、俺は二人に背を向けて遠回りして家に戻った。
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