千剣の聖剣錬成士《ソードブリード》~まともに聖剣を錬成出来ない少年、無限に聖剣を生み出す能力で底辺から成り上がる!~
C-take
第一部 それは伝説の序章
第一章 最弱と、最強と
第一話 英雄への憧れと最強の素質
夜更けに村を襲った凶悪な魔物と、周囲の建物よりも遥かに巨大な白銀の竜の姿。
寝入り際の強襲で、両親を始め、村民達は、ディクスを残して全滅してしまった。ディクス自身も崩れた建物の破片が胸を貫いており、いつまで生きていられるかと言ったところだ。
「よくがんばったな、少年!」
それは、真っ暗な闇の中に差した一筋の光のように
(助けに来て……くれたのか……)
現れたのは、母よりも少し若いくらいの女性。
ディクスから見れば大きな背中と、瑠璃色の長い髪。まとっているのは、王国の国花が左肩のワッペンにあしらわれた、純白の軍服である。
父曰く。それは、王国騎士団の中でも最強と言われる人物のみが袖を通すことの許される、特別な色。過酷な戦場であっても、その純白を貫ける者の証なのだとか。
「その有様でまだ生きてるとは、なかなかのガッツだ、少年! この私が自ら褒めてやってもいいぞ!」
振り返り、にんまりと笑って、豪快に真っ白な歯を見せる女性。まるで先ほどの悪態はなかったかのように振舞っているが、これは彼女なりの気遣いなのだろうか。
その笑みは、両親を失った悲しみとか、それを奪った魔物に対する怒りとか、何も出来なかった自分への不甲斐なさとか、そういったものを全て包み込んで、癒してくれるような。
「だいぶ来るのが遅くなっちまったが、もう大丈夫だ! 私が来た以上、お前は死なせねぇぞ!」
再び白銀の竜と対峙した女性。彼女の右手に青白い線が走り、まばゆい光が溢れ出ている。やがてそれらの光は重なり、束ねられ、そこから一振りの美しい剣を生じさせた。
「さぁ、閃光竜! 私と一曲踊ろうぜ!」
踊ろうと言う割りには、その瞳には激しい怒りが満ちている。それが何に対する怒りなのかはわからなかったが、これほどの強い怒りの感情を目の当りにしたのは初めてだ。
閃く剣の軌道は実に豪快で、鋼の如き竜の鱗をいとも容易く斬り裂いていく。
強固な爪を断ち、雄々しい翼を断ち、頑強な右腕を断ち、最後には猛々しい首を断ち。
僅か数回の斬撃で、見上げるほど巨大な竜を、見事に屠って見せた。これが、王国最強の実力と言うことか。
この光景は、強い憧れとして、ディクスの心に深く刻まれる。
「あんたは……」
「可憐で麗しのプリンセス――だったらよかったんだがな。生憎と雇われ騎士の身でね……」
冗談めかして言ってはいるが、その表情はどこか悲痛な面持ちで。村の惨状を見て、涙の一つも流してしまいそうな、そんな顔をしていた。
意識が保ったのはここまで。出血が多過ぎた。たぶん、自分は死んだのだ。身体がどこかふわふわして、まるで空中でも飛んでいるような気分になる。
どれだけ時間が経っただろう。まぶた越しに太陽の明かりを感じて、ディクスは目を開く。
周囲を見渡すと、そこはきれいに整えられたベッドの上。しかも、あの時見た女性が、こちらを見下ろしているところだった。
「おっ!? 目を覚ましたな、少年!」
ぱっちりとした切れ長の目は、タレ目だった母の目とはだいぶ印象が違う。何だか直視されるだけで、妙な緊張感が湧いてくるほど。
そんな彼女が言うには、今日はあの日から三日後で、捜索の甲斐
ふと例の剣について聞いてみると、あれは【聖剣】と呼ばれるもので、あらゆる魔物を切り裂くことが出来るらしい。【
これは誰にでも使える訳ではなく、適正を持った人間が訓練に訓練を重ねて、初めて得られる
(
今更もしもの話を切り出したところで意味はないのはわかっている。それでも、あの絶望的な状況で、ただ助けを待つしか道がなかったことを考えれば、自身のやりたいことは見えてくる気がした。
ディクスは、彼女にこう告げる。
「俺も
だが、彼女はため息をついて答えた。
「何をバカなことを言っているんだ、少年。せっかく助けた命なんだぞ? わざわざ捨てに行くなんてもってのほかだ」
どうやら
それでもディクスは諦めることが出来なかった。
あの日見た背中への憧れは、そう簡単に消し去れはしなかったのだから。
とりあえず独力で
(だったら、それまでに徹底的に鍛えてやる!)
そう決意したディクスは、史上最年少で王国騎士総長の座に上り詰めたという彼女――アルサンドラ=グレインフォードを師匠と呼ぶようになり、彼女やその部下たちにまとわりついた。
いくつもの騎士団の拠点を点々とする彼女たちについて回り、国中を巡りながら、見よう見まねで鍛錬に励む。
彼女は決して、納得はしてくれなかったが。
(諦めるもんか! 受けた恩を返すだけじゃない! あの時のあの背中に、俺は追い付きたいんだ!)
毎日足腰が立たなくなるまで走り込んだし、どんなに筋肉痛が辛くても自分で最初に決めた目標回数に達するまで筋トレを続ける。
雨の日だろうが、大雪だろうが、熱波の中だろうが、大嵐だろうが。
そうして基礎体力に余裕が出てきた頃合で、彼女や部下たちにせがんで剣の稽古を付けてもらった。最初は剣の握り方から入り、基本的な剣の振り方や、それに合わせた体術まで。
日々増える小さな生傷は当たり前。木剣の握り過ぎでマメが出来て、それが潰れて、その下にまたマメが出来てを繰り返し、それでも木剣を手放さない。
身体が覚えるまで、ひたすらに反復して、反復して。骨の髄まで叩き込んだ。
そして現在。
受験に向かう前に、ディスクは初めて全力の彼女と剣を交えた。
木剣による模擬試合ではあったが、もちろん結果はディクスの惨敗。手も足も出なかったとは、まさしくこのことであろう。
彼女は「まだまだだな」と、あいかわらず子ども扱いしたけれど、自らの姓である『グレインフォード』の名を渡してくれた。
「もしダメだったら、この胸の中で泣かせてやってもいいぜ?」
「しないよ、そんなこと。俺、もう十六だぜ? むしろ、今回ダメだったとしても、入学出来るまで何度でも挑戦してやる!」
「ほう? 大層な口を利くじゃないか、バカ弟子が。だったら、途中で弱音吐いて戻ってくるんじゃね~ぞ?」
相変わらずのにんまり顔で、彼女は見送ってくれる。その様は、まるでもう一人の母親のようですらあった。
そうしてやって来たのが、王都にある王立アールディラン聖剣学園。この国――エウリオラ王国における、唯一にして由緒正しき
王都の中でも一際目を惹く立派な門構えに、ディクスは胸を高鳴らせる。
(ここで、俺も
試験会場である豪華で荘厳なホール内には、ディクスと同じくらいの少年少女から、三十代半ばくらいの成人まで、多くの人々であふれている。
聖剣学園に入学するには、まず適正試験に合格しなければならない。どうやら球状のクリスタルに触れて、その輝きの強さで、適正の有無を診断するそうだ。
いくら身体を鍛えたところで、クリスタルが光らなければ、
全く光らなかった者は早々に不合格となって退室させられ、これまでに一番強く輝いた者は、最高ランクであるランク
あまりの受験者の数に、時間は過ぎる一方で、待っているだけでも数時間。ようやっと順番が回って来て、ディクスの名が呼ばれた。
「ディクスウェン。ディクスウェン=グレインフォード」
「は、はい!」
途端に、会場が騒がしくなる。
「おい、聞いたか? グレインフォードだってよ!」
「あの偏屈に子どもがいるなんて話は聞いたことがないけどな~」
師匠はあの性格なので、高官たちから嫌われているとは聞いていたが、どうやらその悪評は、国中に広まっているらしい。
(今は好き勝手に言ってろ! 俺が強くて優秀な
最高の輝きとまでは行かなくても、せめて光るくらいはして欲しい。
高鳴る鼓動を感じつつ、意を決して、クリスタルに触れるディクス。
すると、クリスタルはまるで太陽が振って来たかのごとき激しい光を発した。
「何だ、この光り方は!?」
「最高ランクのAでも、ここまで光らなかったのに!?」
その光りの強さたるや、試験会場を真っ白に染め上げるほど。
が、その直後。クリスタルに大きなひびが入ったかと思うと、次の瞬間には爆発でもするかのように、弾けて粉々になってしまった。
「えっ……」
何が起きたのかさっぱりわからない。バラバラに砕けた球体は、元の形がわからないほどに細かくなり、その場に散らばってしまっている。
これは自分が原因なのだろうか?
もしかして触り方を間違えたのか?
冷や汗をかきながら、ディクスが恐る恐る周囲を見渡せば、驚いていたのは自分だけではなかった。
受験者たちはもちろん、試験官たちもまた、目を見開いているではないか。
「まさか、本当に起こるとは……」
「ああ、間違いない。あの噂は本当だった。彼は――」
試験官たちが、興奮した顔でディクスを見つめる。
ディクスには何が起きているのかわからない。まさか、クリスタル代の弁償をさせられるのだろうかと、顔面を蒼白にする。
これは最悪、身を粉にして働くしかないか。
そんな風に考えていると、試験官の一人が、声高々に叫んだ。
「ランク
この一言に会場中がどよめき、驚きの声を上げる。
「何だよ、
「流石は騎士総長の弟子ってことか!」
これが、史上初めて認定されることとなった、ランク
こうしてディクスは、これまでの常識を覆すほどの才覚の持ち主として、王立アールディラン聖剣学園の歴史に名前を刻むこととなる。
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