理系男子の異世界転移
モロモロ
日常の違和感
――それは、何かが狂い始めた瞬間だったのかもしれない。
平凡な朝、窓から差し込む日差しに起こされる。
時計を見ると、もう7時を過ぎていた。
彼、水瀬幸太(みなせ こうた)は慌てて布団から飛び起きた。
大学の2年生になり、理工学部での研究が忙しくなる一方で、朝の弱さだけは改善されることがなかった。
「また寝坊か…」
小声で呟きながら、急いでシャワーを浴び、大学へ向かう準備を始める。
部屋は典型的なオタク部屋だ。アニメのフィギュアが整然と並び、パソコンのモニターには前夜まで観ていたアニメの映像が一時停止されたまま。
理系の彼らしい合理的な部分と、オタク趣味が雑然と混ざり合った空間だ。
朝食もそこそこに、幸太はいつもの電車に乗り込む。
周囲には通勤・通学客が鈍い目でスマホを眺めている姿。
彼もスマホを取り出して、ネットニュースを適当にスクロールしていた。
最近、妙な記事が多く目につく。
「未確認飛行物体の目撃が増加」
「全国的に電力の不安定化が進行」
「電波障害で通信トラブル」…
そんなニュースがここ数ヶ月、ちらほらと報道されるようになっていた。
だが、特に深く考えることもなく、ただの一時的な現象だろうと片付ける。
自分の研究に直接関わりがなければ、それほど気にすることはない。
それが理系オタクの冷静なスタンスだ。
電車が駅に到着し、彼は校舎へ向かう。
今日はゼミの日だ。
幸太は研究室のドアを開けると、先輩の田中先輩がすでにパソコンに向かって何かを作業している。
彼女はかなり優秀で、無駄な会話はしないタイプ。
だが、その厳しさの中にも面倒見の良さがあるので、研究室内での頼れる存在だった。
「おはようございます、田中先輩」
「おはよう。寝坊か?」
彼女は軽く笑いながら視線を画面に戻す。
「はい、まぁ、またやっちゃいました」
研究室のもう一人の後輩、吉田もほどなくして姿を見せた。
彼は少しドジで、どこか抜けているところがあり、幸太と違って理論よりも実験派だ。
今日も何かのサンプルを持ち込み、実験器具をいじくり回していた。
「最近、電気が不安定なんですよね。昨日も家のブレーカーが落ちちゃって、実験が中断しちゃいましたよ」
と吉田が愚痴をこぼす。
「ああ、確かに。電力の問題が全国的に広がってるみたいだな」
田中先輩もちらっと言葉を添える。
「まぁ、うちの研究室は自家発電だから助かりますけどね」
と吉田が笑う。
幸太は彼らの会話を聞きながら、自分の研究テーマである「次世代の電気エネルギー変換技術」について、ふと違和感を覚えた。
最近のデータが妙に不安定だ。
電力供給の波に合わせるかのように、実験結果が変動する。
しかし、まだその原因を突き止めることはできていない。
「最近、電気関係の異常が多いな…」幸太はボソッと呟いた。
「もしかしたら、宇宙人が地球のエネルギーを吸い取ってるんじゃないですか?」
吉田が冗談っぽく言うと、田中先輩が呆れた顔で彼を一瞥した。
「それはないでしょう。でも、今の技術じゃわからないことも多いし、何が起こっているのかを確かめるのが私たちの仕事だよ」
田中先輩が冷静にそう答えた。
幸太はその言葉に頷きながらも、どこか引っかかるものを感じていた。
エネルギー問題、そして不可解な空のニュース。そ
れがただの偶然で片付けられないような、奇妙な感覚が彼の胸に芽生え始めていたのだ。
その夜、幸太は大学からの帰り道にふと夜空を見上げた。
満天の星空の中、やはりどこか異様な雰囲気が漂っている。
微妙な違和感…だが、それが何なのかはまだはっきりとわからなかった。
「もし、本当に宇宙人がいたとしたら、どうなるんだろう…?」
そんなありきたりな考えが頭をよぎる。
しかし、彼がその答えを知るのは、もっと後の話だった。
そして、この奇妙な日常が、彼を新たな冒険へと導く始まりでもあった。
――強い風が吹き抜け、草がざわざわと揺れる音が聞こえる。
水瀬幸太は、体中に感じる冷たい感覚に目を覚ました。
ぼんやりとした頭で、彼は自分の体を起こし、目の前に広がる風景を見た瞬間、凍りついた。
そこには、見渡す限り広がる草原があった。
「…何だ、ここ?」
いつもの狭い部屋や、天井の蛍光灯はどこにもなく、彼の目に飛び込んできたのは青い空と広い大地。
確かに昨晩、幸太は自分の部屋でベッドに潜り込み、寝たはずだ。
だが、目覚めた場所はまるで違う世界だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます