第5話
腹の肉を摘ままれ真剣な面持ちで問われ、真一の胸に置いていた瑠衣の両手が震える。
「上に乗ってる感じもいつもより重い気がするし、やっぱ太ったよ!」
真一の胸に置いた手をひっかくように腹に移動させ、思い切り体重を掛けて押す。
「ぐふっ、なにすんの?!」
「わっ、悪かったわね……筋肉がないあんたのお腹みたいにペラペラじゃなくて!」
不快でしかない繋がりを引き抜いて立ち上がると、道しるべのように脱ぎ捨てられた服を一枚ずつ拾って身に着ける。
――身も心も冷えた。
皮肉にも服を着て一人になって煮えたぎるような熱が湧く。
「もう、そんなに怒んなよ! 別に太ったの悪いなんて言ってないだろ」
「私が太ったこと以外にもっと気づくこと無かったわけ?!」
「あっ、胸も少し大きくなったとか?」
「……死ね」
脱ぎ捨てられたヒールを履くと玄関のドアを開けて部屋を出てヒールを踏み鳴らしてエレベーター前に着き、ボタンを押し振り返る。
たった今出てきたドアとエレベーターの扉、どちらが先に開くか怒りの中でもまだ考えていた。
「ありえない」
自分を追いかけてきて謝るのではないかと、怒りの中にまだ期待していること。
予想通りにエレベーターの扉が先に開いて真一が自分を追いかけてこないこと。
――面倒くさい!
首を振り瑠衣はエレベーターに乗り込み、真っ直ぐに自宅へと帰った。
自宅に着いた瑠衣は熱いシャワーを浴びながら浴室についている全身鏡で体を確かめる。
「はぁ……太ったわ」
自分でも掴める腹の肉に愕然とする。気づいていない訳ではなく、見ないふりをしていた。
――忙しくて全然、自炊してなかったからな
後悔しても痩せるわけではないが、数時間前に居酒屋で飲んだ酒や料理が頭に浮かび気持ちが沈む。
「ダイエットするか……」
決して真一の為ではなく自分のためにだと言い聞かせる。
そしてきちんと二人で今後のことを話そうと心に決めた。
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