第77話

全部を諦めたはずだったのに、こんなに未来を夢見てしまうのは烏のせいだろうか。


 あの時、烏など助けなかったら良かったのか、話しかけたりしなければ、出会わなければよかったのだろうか。


――違う。誰も教えてくれなくたって分かっている。


 病気だってなぜ自分がと思うが、誰のせいでもなくただ不運だということも理解はしているが割り切れない思いはある。


――死ぬのが怖い。


 もう一度だけでも、私に夢や希望を思い出させてくれた烏に会えたらこの恐怖も和らぎ穏やかに最期を受け入れられるかも知れない。


 心が闇の中に沈んでいくような感覚は今まで何度もあったが、なんとか沈み込まないように必死に足掻いていたがもう疲れてしまった。


 でも一つだけ病気で良かったことがあったのを思い出し微笑む。


――やっぱりカラスさんに出会えたこと。


 目を閉じるとドロドロした闇が広がり同じ黒なのに、烏の黒は光り輝きとても綺麗で眩しかったのを思い出す。


 闇の中から何かが手招きしているのが見え、いよいよかと覚悟を決めた。

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