第32話

「カウンセリングは、平日に1時間行います。

桜…じゃなくって、優衣ちゃん!優衣ちゃんが話したいと思った時に僕を呼んで下さい」


「私が話したい時に?」

優衣は思わず海人を見た。


海人と目が合い、微笑んだ海人の姿に優衣はまたうつむいた。


「基本的に午後9時から午後5時までの間に呼んでくれれば、それから1時間カウンセリングが出来ます。

優衣ちゃんが話したいと思った時に看護士さんに言って、僕を呼んで下さい」


「呼ばなかったら…来ないんですか?」


「基本的にはそうなるけど…。

時間を決めてもいいよ。

でも、その日の気分や体調によって話したい、話せる時間が違ったりするでしょ?

この病院は、患者さんの意思を尊重するんだ。

だから、優衣ちゃんが話したい時間に僕を呼んでくれるのが1番いいと思うんだ。

もし話したくない日は呼ばなくてもいいから。

土日は僕もお休みだから、カウンセリングは平日だけになるけど」


その言葉に、優衣は少し笑ってしまう。


平日にしか会えない条件は、バスの中で会える時と変わらない。

そう思うと笑ってしまった。


「1日、1時間ですか?」


「さっき、患者さんの意思を尊重するって言ったけど、患者さんとたくさんの時間を一緒にいる事も避けてるんだ。

患者さんがカウンセラーに依存してしまい、逆に心が壊れてしまうから。

寂しい時もあるかも知れないけど、患者さんや患者さんの家族のために、長くたくさんの時間を一緒に過ごさないようにしています。

ごめんなさい」


優衣は納得し、「はい、大丈夫です」と受け入れた。


「それじゃあ、今日から優衣ちゃんの担当として、全力でサポートします。

よろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いします。海人先生」


握手をした。


初めて¨あの人¨に触れた。


そしてこの瞬間、海人が優衣の担当になった。


海人との時間が約束される。


1時間だけの約束の時間。

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