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第10話

「どうしたの?」



「うん……今日はお別れを言いに来たんだ」



「えっ!? なんで? どうしてよ!」





 心臓が悲鳴を上げてるようにドキドキと鳴り、今年こそは泣かないと決めていたのに涙が溢れてくる。



 フィンは「ごめんね」と呟いて私の頭を撫でる。私はその手を振り払う。





「な、なんでよ! 子供扱いしないで!」





 私の態度に驚いた表情を見せ、あの困った笑顔を浮かべ私を見つめて話す。





「だからだよ。もう子供じゃないからお別れを言うんだよ」



「意味が分からないよ……お別れなんかしたくないもん」





 子供じゃないからお別れ? まだ私は14歳で成人はしてない。フィンのサンタの国では14歳が成人なの?



 どちらにしろ、このまま私は成長し続ければ嫌でも大人になる。ずっと一緒にはいられないってことだ。





「ナナは俺のことを疑問に思ってるだろう? 手紙にはあえて質問するようなことも書かかず、俺を信じることに必死だったんじゃない?」



「そんなこと……」



「前に俺に疑いを持った時に姿が霞んで見えなくなったから怖くて聞かないだけだろう?」





 問い詰めるように真っ直ぐに見つめて話すフィンの姿が私の心が揺れるたびに霞む。



 知りたいけど、理解できないものを聞けば疑ってしまう。

 それでフィンが消えてしまうなら――





「知らなくていいから!」



「俺がまだ見える?」





 頷くとフィンは私の頬に手を伸ばし、涙を拭って笑う。





「無理しなくていい。俺が見えなくなることは自然なことなんだよ。知識を身につけ疑問をもつってことは大人になっていくのに必要なことだよ。俺の為に目を瞑ってしまうのは良くない」



「フィンだけが見えればいいもん! 私、フィンのことが好き!」





 勢いに任せ思いのたけをぶつけると、フィンは何とも言い難い悲しい顔をしてそっと私から手離した。



 何も言わず泣いたままの私を置いていくフィンの背中をいつかみたいに捕まえるが、振り向いてくれない。





「ナナ、さようなら……」





 窓の外にはブリクセンが引くソリがすでに止まっていて、フィンは飛び乗ると稲妻のように夜空をソリで駆け抜けて行ってしまった。



 いつもなら、絶対に私を笑顔にしてから帰るのに。





「ずるいよ……何も言ってくれなかった」





 ボロボロと泣いて絶望に顔を下に向けると、何か光るものが足元に落ちている。涙を拭きながら屈んでみると




 ――銀の笛。




 これはソリを呼ぶ笛だ。これを吹けばフィンを呼び戻せる。今なら間に合うかもしれないと躊躇うことなく銀の笛を吹く。





「なんでよ……私じゃ駄目なの?」





 何度、息を吹き込んでも夜空に笛の音は響かない。私はまた涙を流し、目が腫れて頭が痛くなってきたころにやっと涙が枯れた。



 ベッドに腰掛けて窓の外を見るとうっすらと太陽が顔を覗かせはじめている。





「まだ、諦めないんだから!」





 決意を固めるように一人、太陽に向かって叫ぶ。まだ、手紙を書くペンもある。それに、きっとこの銀の笛は大切なものだから取りにくるに違いない。



 私は銀の笛を首から下げ、片時も離さないことにした。そして、手紙も変わらず毎日おくり続けた。




 ――返事は一度もなかったけど





「あんな別れかた絶対に認めないし、告白の返事だってもらってない! 今年は逃がさない!」





 首から下げた銀の笛を取り出して夜空に白い息を広げた。

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