第58話

次の日の朝、目を覚ました結希の横に、幸が座っていた。

「熱、下がった?。大丈夫?」

まだ眠そうに目を擦り、結希は幸の額に手を当てた。

まだ微熱はあるものの、熱は下がりつつあるようで、結希も安堵の笑みを浮かべ「何か食べなくちゃ。」と祥也が買って来た物を袋から取り出して行く。

「これ、半分ずつ食べない?」と幸はメロンパンを取り、結希に聞く。

頷き、横に座った結希に半分に契(ちぎ)ったメロンパンを渡す。

「ありがとう。」

メロンパンを一口食べた。


その時、結希の目にジワっと涙が浮かんだ。

その涙に気付き、「どうしたの?。どこか苦しい?!」と幸は慌て、結希の背中を大きく摩った。

「大丈夫。苦しくないよ。」と言う結希の目には涙が溢れ、頬を流れて行く。

「どうして泣いてるの?

。僕のせい…?」

幸は服の袖で結希の涙を拭った。

「幸のせいじゃないよ。」と大きく首を振り、幸の手を握る。

「幸と一つのパンを分けて食べれるなんて、あの時には思えなかったから嬉しくて…。」

「あの時…?」

「麗香がいた時。」

麗香の名前に2人はうつむいた。

「あの頃も、結希は僕の事---」

「ずっと好きだった。どうしても諦められなかった。好きだったから…。今もずっとこれからも。」


幸の目からも涙が溢れ、幸は力強く結希を抱き寄せ、頬にキスをした。

幸の優しいぬくもりに抱かれ、結希は微笑んだ。

1つのメロンパンを半分ずつ食べている。


この小さな幸せを守りたかったのに…。

ただそれだけだったのに…。

それだけで良かったのに…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る