年上の同級生が配信者だということを、ママ(受肉させた絵師)の俺だけが知っている
鈴木佐藤
葉の色
ほとんどの教室から海が見えるこの学校は、ロケーション偏差値高め高校とよく言われている。
体育の授業や運動部の活動で浜辺を走ることもあり、その浜辺のマラソン──通称・浜ソンとかしている生徒たちの姿もあって、そのせいで青春偏差値も高めと言われている。
そこそこ人気があって、そこそこ大きい高校。
青春偏差値は高いが、勉強偏差値はまあ、普通。
学校最寄りの駅は十分に一度電車も出ていて、中心街へのアクセスも悪くない。
海が近い学校は風が強く、それは難点だがまあ男子高校生としては──女子のスカートとか──期待が膨らむこともあるのでやっぱりプラスマイナスゼロ点とする。
始業式の日。
三年生になって初めての登校だ。
偉大なライトノベルもネットの片隅の三流ウェブ小説も、ありふれた漫画でも。分かりやすく出会いから書くべきだろう。まあこれは本にも漫画にもなるような劇的な話じゃあないけれど。
やはり最初は自己紹介からだろう。
新しい教室で最初の授業は交流を深めようとのことで自己紹介の時間だ。
そこそこ大きい高校は生徒数も多い。教室に入ると、二年生の頃のクラスメイトは二人しかいなかった。それでもいるだけましか。
だいぶ人の埋まった机。騒がしい教室を見回して──俺はもう一つ、知っている顔に気がづいた。
教室の真ん中一番前の席。そこに座る彼女だけ雰囲気が違った。
バレッタで一房だけまとめられた長い髪型のせいだろうか、ひときわ大人びて見えた彼女を──俺は知っている。
「
立ち上がると後ろを向いて、後ろの生徒たちに向けた顔は──甘い垂れ目。
「留年しちゃって、三年生は二回目です。なので……」
長い髪の毛は茶髪。はっきり喋るその唇は、艶のあるピンク色。
「なので、みんなよりお姉さんですが……気にせず仲良くしてね」
あの日スマホの画面で見た顔が、同じ空間で笑った。花が綻ぶような笑みだった。
いや、けど人違いかもしれない。
その声を知っている。
波のようにさざめく胸は、周りのざわめきのおかげでごまかせた。
そんなクラス全員一通りの自己紹介の後、くじで席替えが行われた。
狙うのはもちろん一番後ろの窓際の席だ。運は良い方だと思う。
喜び勇んで新しい席に移動した俺の前で、長い茶髪が揺れた。声かけは俺より先に、隣の席のヤツだった。
「よろしくね」
その隣の席の男は、二年の頃同じクラスだったヤツだ。
「は、はいっ。よろしくお願いしますっ!」
口の端にやけてるぞ。緊張があからさま。
彼女は奴の返事に頷いて答えると、椅子に座ったまま後ろの俺に振り向いた。
「よろしくね」
垂れ目がいっそう細められて、その顔の糖度が増す。
人ウケ良さそうなその顔は笑うと、犬のように懐っこそうな雰囲気を感じる。
「よろしく」
俺が返事をすると、その目が丸く見開かれた。
ちょっとそっけなさすぎただろうか? と思って付け足す。
「
「小田巻くん」
俺の名前を呼んだ。
「よろしくね」
──やっぱりスマホの画面で見た顔だった。
出会うはずなんてないと思っていた。
まさか同じ学校の、同級生になるなんて。
なあ、嘘だろ。
だってあまりにも画面の向こうと──配信と違いすぎる。
さすが青春偏差値が高い高校だ。
カーテンが風で動いて、見える窓の外は桜が散り始めていた。
春の風は青い。
──だって俺の知ってるきみのキャラクターは
『ま、ママああ〜っ!? 聞いてよおお〜っ!』
お姉ちゃんというには程遠いじゃないか。
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