第34話 エプロンと先輩

「ひー君、どこ行くの? 制服で……どうしたの、今日日曜日だよ?」


「あ、いや、ちょっとね」


「そ、そうなんだ……早く帰ってきてね、ひー君。お休みだから、その……いっぱい一緒に、いたいし」



「よーし、完成!」

 一人の部室で、ミシンの電源を落としながらそう呟く。


 今日は日曜日、学校は休みの日。


 でも一刻でも早く作りかけのエプロンを仕上げたかった俺は、部長の近ちゃん先輩に部屋を開けてもらって作業をしていた⋯⋯その先輩はどっかにいったんだけど。


「ん〜、我ながら完璧! 刺繍も上手くいったし、縫い目も⋯⋯これなら喜んでくれそう!」


「自画自賛とは珍しいね、日向。そんなに良いものが出来たかい?」

 完成したエプロンを見ながら色々妄想しているとガラガラと扉が開いて汗だくの先輩が入ってくる。


「⋯⋯どうしたんですか、先輩? そんな汗だくでどこいってたんですか?」


「ちょっとね⋯⋯ところでずいぶんと嬉し楽しそうだけどそのエプロンは誰かのプレゼントかい?」


「ま、まぁ……ふふっ、そんなところです」

 そんな先輩の言葉に色々嬉しくて笑みをこぼしながら答える。

 俺のつくったものを、俺の大好きな人が着てくれる……文章にするとめっちゃ気持ちが悪いけど、すごく嬉しいことだ。


「そっか……亜理紗ちゃん?」

 そんな僕の様子を見た先輩は、にこにこしながら僕の隣に座りそう聞いてくる。


「はい、そうです。柊木……亜理紗に渡します」

 まぁ隠す必要もないだろ、近ちゃん先輩だし。

 幼馴染だし、一応……あ、言い忘れたけどこの人は俺の部活の部長の近宮先輩。


 信じられないかもしれないけど、この人ぐーちゃん先輩といないとこんな感じで普通に優しいまともな人、俺も信じられない……いや、信じたくないが正解かもだけど。

 昔、というか付き合った当初はまだまだまともなバカップルで性格の豹変もなかったのに、気づいたら今の感じに……ってもう考えるのはやめよう、怖いし。

 とにかく、近ちゃん先輩もぐーちゃん先輩も普段は優しいんです、一人の時は本当に。幼馴染だからこの辺はよくわかる、だからこそ怖いんだけど。


 話を戻して、僕がそういうと近ちゃん先輩はさらに笑顔になり

「ふぅん、そっかぁ……嬉しいなぁ、それは」


「嬉しい、ですか? 何でですか?」


「嬉しいよ、だって日向に彼女ができたんだもん。あんな弟みたいに可愛がってたあのちび日向に彼女が……嬉しいに決まってるじゃん、そんなの」

 にこにこしながら、満面の笑みでそう答える先輩。


 ほんともう、この人は……

「ありがと、近ちゃん。ほんと昔から、近ちゃんは優しいよね」


「あ、久しぶりに敬語じゃない! 昔の喋り方に戻った、近ちゃん嬉しい!!!」


「まぁ、二人だしこういう話してるし。それに、久しぶりに近ちゃん優しいし」

 意図的に、というか二人の時に性格変わるからそれと仲間と思われたくないから高校からは敬語使ってたけど、もういいや。やっぱりこっちの方が楽、近ちゃんにもぐーちゃんにも。一人の時限定だけど。


「ふふふ、そうかそうか。それは嬉しいよ、色々と。ぐーちゃんも喜ぶと思うよ、君に彼女ができたって知ったら!」


「まぁ、ぐーちゃんゴシップも大好きだもんね……って違う違う! 当たり前みたいに話してたけど、俺とあーちゃ、亜理紗は別に付き合ってないよ、まだ!」


「え、そうなの!? 何で!?」

 さっきまでずっとにこにこしていた近ちゃんが、僕の返事を聞いて驚いたように目を丸くする。

 そらそうか、驚くよな。俺だって驚く自信がある。


「うそでしょ、付き合ってるでしょ!!! この前謎空間で膝枕してもらってたのに!?」


「いや、ほぼ付き合ってる感じ……ってえぇ!? 見てたの、近ちゃん!?」


「うん、ぐーちゃんと一緒に。ラブラブだな~、って思いながら見てた」


「え、ま、マジか……はっず……」

 ……いや、冷静にめちゃくちゃ恥ずかしいな、これ!

 あれ見られてのか、あんな二人の空間でしか許されないイチャイチャを……やば、いくら相手が近ちゃんぐーちゃんだからと言っても恥ずかしい!!!


「まぁまぁ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ。僕とぐーちゃんもあんな感じのイチャイチャはしょっちゅうだし」


「一緒にすんな、近ちゃんぐーちゃんバカップルと! 小学校の時からずっといちゃついてる二人とは歴が違うの、新米だから……いや、別に新米ってわけでもまだないけど、始まってないから」


「ふふふ、そうかそうか。でも、僕的には二人がイチャイチャしてるところ、もっと見てみたいけどな。誰かの幸せそうな姿って見てると嬉しいからね。それが幼馴染の日向だとなおさら」

 そう言ってまたまた優しい笑顔を向けてくれる近ちゃん。


「……そんなこと言ってバカップル仲間増やそうとしてない?」


「いやいや、そんなことない、本心! 本心で言ってるって、日向には幸せになってほしいから……あ、あと僕的には日向もバカップル適正高いと思うけど? 結構僕たちみたいに、ずっとイチャイチャしそうだけど」


「いや、そんなこと……」

 否定はできないな、これ。

 結構どこでもいちゃついてるし、それに俺は亜理紗の事好きすぎるし……いやいや、それでも大丈夫! 俺たちは近ちゃんぐーちゃんみたいにTPOも弁えない付き合い方はしないから、それは絶対!!!


「あはは、手厳しいね、日向も。まぁでも、ずっとラブラブで長続きしてほしいのは本当だよ……あ、そうだ日向。ずっと長続きするカップルってどんなんだと思う?」


「どんなん? えっと……趣味とかライフスタイルが合うとか?」

 絶対この辺は重要でしょ、多分。

 俺と亜理紗は割とあってると思うし、多分。


 すると近ちゃんはまたまた優しく微笑みながら

「うんうん、それは絶対重要。確かにそれはそうなんだけど、でもそれ以上に重要なのがね、相手を思いやる気持ちと好きになる気持ちだよ」


「……どういう事?」


「そのまま。相手を思いやって、欠点でも好きになる……あ、もちろん直さなきゃいけないことはちゃんと注意するよ。でもそうじゃなくて、日常のちょっとダメなところとか、そういう所。相手の全部を好きになるってのが長続きのコツだって僕はおもうな。あくまで、僕の考えだけど」

 ……確かにそうだな。

 俺と亜理紗は今一緒に住んでるから嫌いなところだっていずれ見えてくるだろう……でもそこを好きになればより好きになる。


 それは絶対、そうだろう……まぁ一緒に住んでるからって、亜理紗の嫌いなところが見つかるかはわかんないけど。今のところ全部好きだし。

「ありがと、近ちゃん。やっぱり近ちゃん優しいね、精進します……あ、でも近ちゃんぐーちゃんみたいなバカップルにはならないからね!」


「ふふふ、どうかなぁ? でも頑張ってね、ずっとラブラブの二人が見たいし! あ、そうだこの後暇? 臨時収入があったんだ、ラーメンでも食べに行かない? おごってあげるよ、幼馴染の恋の祝いに」


「マジ!? じゃあおねがいしよっかなぁ!!!」


「フフフ、まじまじ! それじゃあ行こうか、ラーメン屋に!!!」


「おー!!!」

 やっぱり近ちゃんは優しいなぁ、本当に!!!



「ところで臨時収入って何?」


「親戚のおじさんがお小遣いくれたんだ。それで、部室行けば誰かいるかな、って思って」


「……ぐーちゃんは?」


「今日は家族でお出かけ。だから夜まで会えない、寂しいね……それより、僕的には日向は美樹と付き合うかな、って思ってたんだけど?」


「……なんで?」


「それはだって……ずっと一緒にいたし、いつもべったりだったし。てっきり、そういう関係なのかな、って」


「ふふっ、違うよ。僕的には美樹は妹みたいなものだし、美樹的にも僕はお兄ちゃん、って感じだった。そういう関係じゃなかったよ……もし近ちゃんがもっと年上として頼りになったら、話は違ったかもだけど」


「……ほんと、手厳しいな、日向は」



 ~~~


「近ちゃん!!! 会いたかったよ、近ちゃん!!! 好き、大好き、会えなくて寂しかった!!!」


「僕もだよ、ぐーちゃん!!! 君に会えてうれしいよ、本当に! 僕も大好きだよ、ぐーちゃん、ちゅ、んちゅ……」

 ……やっぱりおかしいよ、このカップル!!!



 ☆

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