第3話 一緒に住まない?

「日向が女連れこんどる! しかも自分の服着せて、泣かせて……あんた何しとんの日向!」

 急に扉を開けて入ってきた母さんが俺に向かってそう叫ぶ。

 今いいとこだったのに……母さんタイミング!


「……って言うか母さん! 知ってるだろ、わかってやってるだろそれ! 柊木だよ、柊木亜理紗! よく家に来てるじゃん!」

 亜理紗と母さんよく会ってるじゃん、よくご飯一緒に作ってる仲良しじゃん!

 この前亜理紗用スペース作ってたじゃん、忘れたとは言わせないぞ!


「……んもう、冗談の通じないこね、日向は。もうちょっと乗ってくれても良かったのに」

 ファサっと少し濡れた髪をかき上げながらちょっと呆れた顔でそう言う……今そんな感じの冗談に付き合う時間じゃなかったんだよ!


「はいはい……という事でこんばんは、亜理紗ちゃん。いつも日向がお世話なってるよ、ありがとね」

 くるっと振り返ると亜理紗に向けるは柔和な笑顔……俺の時と対応違いすぎん?


「いえ、こちらの方こそお世話になってます。いつもいつも助けてもらってばっかりで、それにお家にも何度もお邪魔させていただいて。いつもお世話になっています」


「もー、相変わらず礼儀正しくて可愛いねぇ、亜理紗ちゃんは! うちの日向にはもったいないよ! 亜理紗ちゃんはホントいい子!」


「にゃ〜♪」

 デレデレと顔を緩めながら亜理紗の頭を撫でる母さんに、喉をコロコロ鳴らしながら蕩けた笑顔を見せる亜理紗……ホント仲いいよね、この二人。亜理紗もいつの間にか涙晴らして元気になってるし。


「ふふっ、亜理紗ちゃん……で、日向。まだ亜理紗ちゃんがあんたの服着て泣いてたことは解決できてんのやけど! 日向何しとったんや、そう言うプレイか!」


「ずいぶん対応違いますね……あとプレイとか言うな、亜理紗もおるんやぞ! そう言うこと言うなや! 後母さんのことやし何となく勘づいとるやろ!」


「何、どうしたの反抗期?」


「うるさいな、一時的なやつ! ちょっと説明するから待っといて、実はかく……そうだ亜理紗、全部言っていいかな?」


「まって、鮫島。ここは私が説明する、私に説明させて……あのですねおばさん、実はかくかくしかじかありまして……」

 パシッと俺の言葉を止めて、かくかくしかじかさっきの内容をほぼそのままに母さんに説明する。

 亜理紗の言葉にいちいち「なるほど!」とか「本当に!?」とか反応する母さん……聞いてる感はあるけどそれうるさい!


「……というわけでして、というわけです」


「なるほどね、つまり亜理紗ちゃんは引っ越したくないというわけだ」


「はい、要約するとそう言う感じです」


「そうかそうか……それじゃあ家に住む?」


「母さん!? ちょっと母さん!?」


「……何、日向? 文句あるの、嫌なの亜理紗ちゃんが住むの?」

 思わず声を荒げてしまった俺にギロっと向くのは母さんの瞳……怖っ!


「いや、そう言うわけじゃ……」


「なら良いじゃない、お父さんも歓迎してくれるよ絶対」

 ……母さんの言うとおりだし、嫌とかじゃなくて、文句もないけど……そのセリフ俺が言いたかったセリフ!

 母さんのせいで邪魔されたけど俺が亜理紗に言おうとしてたやつだから、俺がカッコよく言いたかったセリフだから!


「え、えっと、おばさん、その……住むって……一緒に住む、ってことですか? そ、その鮫島とかと一緒に住むってことですか? 住んでいいんですか? 私なんかがお家にお世話になっていいんですか?」

 俺の思いを知ってか知らずか、キョトンと大きな瞳をさらにくりくりにした亜理紗が少し浮ついた声でそう聞く。


 その言葉に優しい笑みを浮かべる母さん……だから反応の高低差!

「もう、亜理紗ちゃんそれ以外何があるの? 亜理紗ちゃんも鮫島になるの、おばさんたちと一緒に暮らすの。それなら引っ越さなくて済むし、みんなと一緒に過ごせるよ。それにいつも亜里沙ちゃんが使ってる美月の部屋も余ってるから大丈夫だし……日向ついてくるのはあれかもだけど亜理紗ちゃんさえよければ」


「余計なこ……はい、すみません」

 目力強いな、母さん!

 ビックリするわ、何も言えんようなるわ。


 まあでも、母さんも亜理紗が住むのに乗り気なのは良かったかな?

 母さんの説得が一番大変だと思ってたし……いや、大変なのはむしろその後か。


「え、鮫島になるって……んんん! えっと、おばさんその……よろしくしても大丈夫でしょうか? 私がこの家に住んじゃっても、よろしいでしょうか?」


「うん、大歓迎! 亜理紗ちゃんが来てくれると家もまたにぎやかになるし大歓迎だよ、いつも泊まりの時、私楽しみなんだ。それにもう亜理紗ちゃんのスペースとかも作ってたし、実質家族みたいなものだったし」


「……おばさん、ありがとうございます!!! 私、嬉しい、です……そんな事、家族って、いって、もらえて……またみんなと、日向と一緒に……」


「ふふっ、亜理紗ちゃん泣いちゃダメだよ、キレイな顔が台無しだよ。それにおばさんの服も濡れちゃうし」


「でも、嬉しいので、もうちょっと……」


「もう、しょうがないな、亜理紗ちゃんは……ふふっ、やっぱり娘がもう一人出来たみたい」

 くるくると再び涙を流しながら母さんに抱き着いた亜理紗をちょっと小言を言いながら、でもすごく嬉しそうに抱き留める母さん。


 ホント仲いいな、本当の親子みたい……良かったな、亜理紗。


 そして俺は邪魔者みたいだ。

 だからさっさと……いや、なんか悔しいからこの部屋の隅っこで目立たない様に小さくしておこう!




「……亜理紗ちゃん落ち着いた? もう大丈夫?」

 しばらくして涙も泣き声も収まって、亜理紗が母さんから離れて。


 少し恥ずかしげな表情の亜理紗がはにかみながら口を開く。

「すみません、恥ずかしいところ見せちゃいまして……ごめんなさい、変な事しちゃいました」


「良いのよ、亜理紗ちゃんだから。それじゃあ、着替え持ってくるね、いつも通りのお姉ちゃんのだけど。いつまでも日向の服でもあれだし、準備するからちょっと待ってて。あ、ポンジュース買ってるよ、亜理紗ちゃん好きだから!」


「それもういれたよー」


「あら、日向気が利くじゃない。ならもう1杯あげてちょうだい」


「へいへい、わかりましたよ」

 人使い荒く俺にジュースの準備を押し付け、自分は2階へ服を用意しに行った母さんに少しため息をつきながら、もう1杯ジュースを入れる。


「はい、亜理紗。それにしても……」


「……柊木、でいいよ」


「え?」


「その柊木って呼んでほしいな……柊木がいい、かも」

 目線を逸らしながらそう言う……よくわかんないけどあ、柊木が言うならそうしようか、うん。


「……にしても柊木良かったな! 引っ越さなくてよくなって! 俺もまた柊木と一緒にいれるし、いる時間も……と、とにかく良かった! 俺も嬉しいぜ!」


「うん、そうだね……この服すごくすーすーして落ち着かなかったし」


「ああ、そっち? 確かに、その……色々あれだとは思うけど!」

 オーバーサイズで(仕方なく)ノーブラなおかげでチラチラと見えそうになるし、それにさっき抱き着いてきた時にすごくぽよぽよでふよふよで⋯⋯時と場合も考えずに少しあわあわしてしまったのは内緒にしておきます!


「にゃー……それに下もすーすーするし、ふわふわするし早く着替えたかったんだ」


「そ、そうだ……って下? え、そのぱ、パンツは出してましたよね?」


「……あんなの履けるわけないじゃん。鮫島の使ったパンツなんて……そんなの、履けるわけないじゃん⋯⋯にゃぁ」

 消えてしまいそうな小さな声で真っ赤な顔をしながら……え、ちょちょちょちょちょっと待って?


 てことはその、ひ、柊木はこの薄い俺の服の下はは、はだかなわけで、完全に正真正銘はだかであって、つまりそのさっきまで話してた時も、抱き着いてきた時も泣いていた時も柊木は……!?!?!?!?!?!?!?


「ななな、なに、鮫島……み、見たいの? その私の、その……えっち! 鮫島のえっち!」


「いいいいやいや、滅相も滅相もございません! あ、ほら母さん呼んでるよ! 準備できたって呼んでるよ! だから早く言っておいで! ほら、早く!!!」


「う、うん、そうだね! 早く言ってきます、亜理紗いっきまーす!」

 駆け足で階段を登っていく亜理紗を背中で見ながら俺は一人反省会。


 なんかその……すごくすごいです! なんか、何というか、その……すごくやばいです、それはやばいです、興奮が止まんないです!!!



 ☆


「いやー、やっぱり亜理紗ちゃんは可愛いし、スタイルもいいからどんな服も似合うね! 美月のおさがりもピッタリだし、色々服着せたくなっちゃうな!」


「あ、ありがとうございます……えへへ、可愛い、ですか?」


「うん、すごく……ホント、日向にはもったいないくらいに」


「……私の方こそ、もったいないです。日向、すごくいい人だし、かっこいいし、優しいし、それにそれに……私なんかじゃ、多分……」


「もう、大丈夫だよ、自信もって! 亜里沙ちゃんも可愛いし、日向も⋯⋯あ、お父さん帰ってきた! 亜理紗ちゃん、うちのお父さんに挨拶しに行くよ。きっと歓迎してくれるから!」

 階下からおじさんの「お父さんが戻ったどー!」という陽気な声が聞こえたので、私も首を縦に振る。

 おじさんも私の良くしてくれて凄く良い人……鮫島家は良い人しかいないな、本当に。ホント、大好きな家。


「あ、そうだ亜理紗ちゃん。この家に住むこと、お母さんにちゃんと言って、ちゃんと許可貰ってきてよ。一応、紗菜さんにとってはめでたいことなんだからね! 後今日は泊まりなよ。制服とか色々あるし……それに、日向と一緒に居たいでしょ、亜理紗ちゃんも」


「え、あ、その……あ、ありがとう、ございます。いたいです、一緒に。私も日向と、一緒がいいです」



 ☆


「寒い⋯⋯湯冷めするぞ、風邪ひくぞ」

 雨が降ってたとは思えない澄んだ星空の下で、6月にしては肌寒い外の空気をベランダで浴びながら俺は母さんに恨み節を吐く。


 あの後、父さんに大歓迎の挨拶をして夜ご飯を食べたあり⋯⋯柊木は今日はお泊まりという事で現在2回目のお風呂。


 正直お泊まりというか夜の一つ屋根の下に柊木という状況が結構ヤバいけど⋯⋯これからは日常だから我慢我慢。

 柊木が家に泊まりに来たことはもう数えるのもめんどくさいくらいだし! だからそれはまあ平気……ずっと興奮して、我慢してたのはナイショですけどね!


 それより今は柊木がお風呂に入ったということで覗かないようにベランダに放りだされたことの方が問題だ。

 そらあんな事いわれたし、色々柊木のあれこれ想像しちゃってたけど、でも風呂上がり直後に外に放り出すのは違うだろと。


 大事な長男が湯冷めで風邪ひいても知らないぞ、全く⋯⋯


 「う~、さむさむ……えへへ、こんなとこいた、鮫島。風邪ひくぞ、ホント」

 そんな事を考えながら星空を見ているとカラカラと窓が開く音と、俺の事を呼ぶ声が聞こえる。


「⋯⋯柊木?」


「うん。鮫島、ちょっと大丈夫?」

 振り向くと、パジャマ姿の柊木がお風呂上がりの揺らめきの中、笑顔でベランダに立っていた。



 ★★★

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