世界平和売ります

川崎俊介

第1話 生存競争開始

「これで3人目……」


 俺は、キャッシュカードを狙う暴漢を昏倒させ、独り呟いた。


「学園の理念に共感しているはずの事務職員でさえ、このザマか」


 私立曙光学園に入学してまだ2日目。既に、俺たちを狙う不逞の輩には事欠かなかった。


 辛うじて教室にたどり着くと、昨日20人いたはずのクラスメイトは、誰1人としていなかった。


「ま、そうなるよな」


 私立曙光学園は、倍率6000倍の入試を突破しなければ入学できない超難関校。その代わり、入学すれば【世界変革の資金】として10億円が与えられる。


 夢のある話にも思えるが、この10億こそが悪夢の始まりであることを、理解できていない奴が多い。優秀な合格者といえど、所詮は勉強ができるだけの凡人というわけか。


「はぁ、ギリ遅刻じゃないわね。おはよう、天城くん」


「あぉ、おはよう。王条さん。随分と大人数に狙われたみたいだね」


 クラスメイトの王条舞は、入ってくるなり返り血で汚れた制服を脱ぎ捨てた。


「男子の前で下着姿とはどうなのかな?」


「別に些末なことでしょ。王条くんが私に欲情しようとしまいと関係ない。だって、手を出されたら殺せばいいだけだし」


 相変わらずの強者の思想。名前の通り王者に相応しい心懸けだ。


「今日は何人倒したの?」


「教師を3人、クラスメイト7人、職員を10人」


 大した無双ぶりだ。俺とて王条さんを相手取るのはちょっとしんどそうだな。


「まぁ、金に目が眩むのは人間の性ってことで。仕方ないと割り切るしかないね」


「そうね。でも、このホームルームって何の意味があるのかしら? わざわざ毎日出席してたら非効率じゃない。世界変革どころじゃない」


 確かに王条さんの言う通りだ。この学園はまだ謎が多い。慎重に調査を重ねるべきだろう。

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