第18話

「悪いけど伴侶にするなら中身も男がいいの。人に悪戯する元気があるなら、さっさと戻って謝れば?」




 クズハを冷ややかに睨みつけ、静かに突き放すように言葉を発する絵里にクズハは涙に濡れた顔を上げる。




「嫌、絶対に戻らない……戻れるわけないじゃないバカ!!」




 叫び声を上げたかと思うと、ドロンと妙な音がして二人が目を開けるとクズハの姿は消え、床に一枚葉っぱが落ちていた。



 北木と絵里は顔を見合わせて、床に残された一枚の葉っぱをもう一度見て肩を落とす。




「本当に狐なんだな……」



「ですね……あれ、かなり拗らせてますね。こっちでどうにかしないと北木課長、一生もとの姿に戻れないですよ」




 葉っぱと一緒に床から絵里に拾い上げられた北木は、ほとほと困ったように尻尾をだらりと下げて考えこんでいた。




――あんなのどうしろと? 女心もだが狐心など規格外。




 黙ったままの北木を絵里はデスクに置いて葉っぱを頭に乗せ笑いながら、まだ全部閉じられていなかったボタンを掛ける。




「済まない」



「なんで北木課長が謝るんですか?」



「一応、僕の体でその……」




 心と体はバラバラだとしても、北木が絵里に触れていたのは事実だと真面目な北木は絵里に謝るが、絵里は口元を歪めた。




「いいんですよ。北木課長であってそうでないんですから。それに、私の体なんか興味ないんですもんね?」



「そ、それは……」



「お母さんよりは傷ついていませんから気にしないでください。原因はわかったし帰りますか」




 絵里は狐も真っ青になりそうな皮肉がデコレーションされた笑顔を北木に向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る