天気雨

第1話

腕を上げ椅子の背もたれを使って伸びをしながら、窓の外を見る齢30になる紺野 絵里[コンノ エリ]。



 出勤時から降り始めた雨はまだ降り続けていたが、雲の切れ間から薄日も差していた。



――こういう天気って何て言うんだっけ?



 パソコンに疲れた目を和らげようと、目頭を揉みながら考えていると声をかけられる。




「紺野君、明日の会議で使う書類を今からまとめて欲しい」



「えっ?! 今から? 明日って……何時の会議ですか?」



「朝一番の会議だ」




 デスクに置かれたファイルを見てがっくりと肩を落とす。会議の時間とファイルの厚みから見ても明日に持ち越せる仕事ではない。



――今日も残業決定か。



 顔を上げデスク脇に立つ上司に「分かりました」と答えた絵里は去って行く上司の背中を睨みつけていた。



 涼しげな切れ長の目が印象的で、端正な顔をした上司の北木 常寿。[キタキ ツネヒサ]



 社内ではそれなりにモテる部類にある北木だが、絵里の印象は周りと違っていた。



 狐のようで食えない男。



 むっつりとした顔で絵里がファイルに手を伸ばし溜息をついたのと同時に終業の時間をむかえた。

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