僕のB事情

白鷺(楓賢)

第1話 はじまりのシール貼り

事業所に通い始めて、もう7年が経つ。当初、僕はとても緊張していて、自分がちゃんと働けるのか不安でいっぱいだった。周囲の利用者や職員の人たちが和気藹々としている姿を見て、こんな風に馴染めるのかと戸惑ったことを今でも覚えている。


そんな僕が最初に任された仕事は「シール貼り」だった。商品にラベルやシールを一枚一枚貼る単純作業だ。これが案外、難しい。シールの位置が少しでもズレると、見栄えが悪くなるし、貼り直しもできない。手元に神経を集中させなければならないため、作業に慣れるまでは何度も失敗した。


でも、僕はこのシール貼りにすぐに魅了された。自分の手で一つずつシールを貼るたびに、作品が形になっていく感覚が心地よかったのだ。ひとりで集中して取り組むこの仕事は、僕にぴったりだった。毎日、同じ作業を繰り返していくうちに、少しずつコツが掴めるようになり、シールを正確に、そして早く貼れるようになっていった。


「シール貼り、得意なんだね。」と職員の人に言われた時は、嬉しかった。僕にも得意なことがあるんだと、初めて自信が持てた瞬間だった。事業所に通う日々の中で、そんな小さな成功体験が僕の心の支えになっていった。


今では、シール貼りはもちろん、他のいろいろな仕事にも挑戦している。流れ作業はまだ苦手だけど、ひとりで完結できる仕事なら自信を持って取り組めるようになった。しんどい時は手をあげて休む勇気も持てるようになった。


これからも、僕の「得意なこと」を大切にして、少しずつ自分らしく進んでいきたい。シール貼りという小さなステップが、僕にとっては大きな一歩だったのだ。


(第1話 終)

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