第5話
「申し訳ないと思ったのですが、内ポケットに時計が入っておりまして」
「え? ああ、コイツのことか?」
「あ! そうです、そちらですわ。その時計、お水に浸かってしまったせいか、うごきが悪くなっておりまして……お見受けしたところ、よい品でしたので大切な物だろうと思い簡単に修理させていただきました」
「……修理? わざわざ、時計屋に持って行ってくれたのか?」
「いえ、あの。わたくし……女のくせにと思われるかもしれませぬがオルゴールとか時計などのカラクリを弄るのが好きでして……そのわたくしが……なので不具合があったらキチンとした職人さんに見て頂いてください」
「貴女が修理を……器用だな」
そういいながら時計を上げたり下げたり、耳に当てて秒針の音を確認するも不具合は感じられず、目の前の虫一つ殺せないような、と、いうか刺繍しか出来ないようなお嬢さんが時計を直したと聞いて驚いていた。
「今のところ、不具合はなさそうだ」
「ふふ、それならよかったわ」
ホッとしたように笑いながら窓のそばに行く彼女をサムは物珍しそうに眺めた。
「今日は、とてもいい天気でしてよ」
「ジェイが、いつになくお喋りだからね。雨が降るかもしれないよ? しかも雷雨だね、あはは!」
サムは俺を見て舌をペロッと出して見せた。
医者の家というだけあって、身なりもきちんとした美しい娘はサムの髪の色とほぼ同じ光を放つ金髪を片側にまとめて緩く三つ編みにしていた。
「医者の娘か、じゃあ貴族だね……ジェイ気に入ったの? 品もいいし、何よりさあ、笑顔がチャーミングだ! ボクはいいと思うよ」
サムはニヤニヤしながら長椅子に腰掛けて彼女を見ていた。俺は茶化すように言ったサムを無視して彼女に視線を移す。
「お顔の色もとってもいいみたいで安心しましたわ、まだこの時期は水が冷たいから……お熱が出るんじゃないかと思ってましたの。でも、とっても丈夫なのね。素晴らしいわ。あ、そうだわ、お茶をお持ちしましょうか? それともスープがいいかしら?」
彼女はそういいながら、わずかに開いていた窓を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます