第15話

ルリのその態度は、さすがこの国で指折りの令嬢と言われるだけあって威厳と高貴に包まれていた。


男はルリをまっすぐに見て髪をかき上げ観念したように言った。


「ここに座っても?」


「ええ。かまわないわ。お掛けなって」



 男はルリの目の前のソファに腰を下ろすと意を決したように口を開いたのだった。


「オレは、アネモネやあのシステムでは326番と呼ばれていました」


「あのシステム……ええ。うん。そうね」



 ルリは昨晩の事と男が言っていることを脳の中で照合した。


 男は無造作に伸びた髪と無精髭で表情があまり見て取れなかったが、ルリの様子を見て少しホッとしたように言葉をつづけた。



「オレの本当の名前は、赤間充といいます」



男の声のトーンは心地のいいものだった。



「赤間? ……あの、大臣をされている赤間様と同じ苗字だけれど何かご関係があるのかしら?」


 男……ミツルは困惑したように瞳をクルリと動かして、諦めたように視線を落とした。



「その……赤間です。父は現大臣をしている赤間正造で、兄の赤間勲も、名前ぐらいは聞いたことがおありでしょうが……その補佐官を務めています」



「そう……そのおふたりの赤間様なら、何度かお目にかかったことがあるわ」



ルリは、大きく頷きながら答えた。


そして、ミツルと名乗ったこの男の物言いや振る舞いを見て、育ちの良さとでもいうのか、きちんとした教育を受けて育ったということがわかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る