1、奇妙
第1話
「信じられないわ」
ルリはそう言って大きなため息をついた。
大学内の小さなカフェテラスは学生で賑わっていた。
先に座ってアイスカフェモカを飲んでいた有紀は眉間に皺を寄せてルリのつむじを突ついた。
「ルリ! 何よ、来るなり」
ルリは顔を上げると泣きそうな顔をして一気に喋った。
「おばあ様が、お見合い写真を送ってきたのよ。今月に入ってもう5回目! うんざりだわ」
「ルリがはっきりしないから悪いんじゃなくて?」
「そんな事! 再三申し上げたわよ」
ルリは頭を抱えてステンレス製の冷たいテーブルに頬をつけた。
「まあ、天下の大崎グループの令嬢ともなればお見合いしたいっていう殿方もそれはそれは沢山おいでなのよ。ルリの理想が高いのか、お相手がダメなのか。どっちなのかしら」
有紀はクスクスと笑いながらストローをくるくると動かした。
大崎瑠璃。20歳。
先日誕生日を迎えてやっと成人として扱われるようになった。
友人の有紀には「ルリはお子様」と言われるほど恋愛や世間の事情に疎かった。
それというのも、大崎グループという大企業の令嬢である瑠璃は幼い頃から厳しくしつけられており、両親や祖父母と様々なパーティーやお茶会に出席して、浮世離れした生活を送っていたのも原因だろうと有紀や友人たちは言った。
本人は全くその自覚がないのだから罪である。
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