第9話

私は泣き出しそうだった。



指を開いて空を眺めると、空の月も再び顔を出した。




「じゃあな、明日学校でな」


「……ありがとう。えっと、た、高橋」


「オースケでいいよ」


「う、うん。明日ね」



ものすごく安い女かもしれない。


嬉しかった。


そして、恋に落ちていた。


自覚するほどに、ハッキリと恋に落ちていた。




「明日……」



オースケはそこまで言って少し考えて耳を赤く染めながら言った。



「明日、昼メシ一緒に食わねえ?」


「えっ!」


「授業終わったら、教室迎えに行くわ」


「……うん」



顔から火が出るほど熱かった。


オースケはカクカクとした動作で歩き出した。



「あっ! お、おやすみ!」

「……」



体ごとこちらに向くとフニャリと笑って、手を大きく振った。




「おやすみ!」




捕まえた小さな月をぎゅっと握って、オースケが角を曲がるまで見送ると、そのガラスを空にかざして丸い月と重ねる。



キラキラと光ってとても綺麗だった。



私は少しだけ口角をあげて背筋をピンと伸ばす。




おやすみ、今日のお月様。

おやすみ。また、明日。






おわり

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