第8話
「あ……うち、ここ」
7階建てのマンションの前につくと、足先で風が渦を作って枯れ葉が円を残した。
「ふうん」
オースケはマンションを見上げて視線を私に戻すと口を開いた。
「……じゃあね」
「あ、うん」
大きな身体を屈めると少しだけ笑って見せる。
「……また、月が捕まえたくなったら俺があの道通るの待ってからにしろよ」
「え?」
「止めてやるよ」
ぎゅっと胸が締め付けられたような気分になった。
オースケの肩の後ろに月が滲むように空に溶けていた。
「……もう、大丈夫よ」
「そうか、ならいいけど」
何か言わなくちゃいけない。
そう思いながらも何を言っていいか判らずに必死で考えながらオースケを見上げた。
「……じゃあな」
「あ! えっと、送ってくれてありがとう。ココアもありがとう! ……美味しかった。それから……えっと、ともかくどうもありがとう」
オースケは少しだけ目を見開いた後で、猫みたいに目を細めて背を向けると手をヒラヒラとふって歩き出した。
私はぼんやりとその背中を見ていた。
するとオースケは突然振り返って、タタタッと私の前に戻って来た。
「さっき、オマエを砂浜で見つける前に堤防の所ずっと歩いてたら砂浜が光ったんだ……で、砂浜に降りたらオマエが居たんだけどな。そん時、これ拾ったんだ……手出してみ」
「?」
右手をそっと差し出すと、べっこう色の欠片をのせてきた。
ガラス片なのだろうが波に揉まれて角が丸く研磨されたように滑らかで、歪な丸い宝石のように見えた。
「ウインドウグラス」
「……いらねーと思うけど、やるよ」
「え」
「月みたいだろ」
オースケは私の指を閉じさせて手のひらの中にそれを納めた。
その瞬間、雲が月を隠し空が暗くなった。
「月……捕まえた気分じゃね?」
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