第3話

「……オースケ」


「あ、俺の事知ってる? 3組の高橋。高橋桜介、さくら、に魚介類の介って書いてオースケ」



私は思わず笑った。



「魚介類って」

「あ、笑った! 」



ハッとして、また背を向けて歩いた。



「俺、部活帰りで家に帰るところ」


「あ、そ」


「なあ、上あがろうぜ?」


「勝手にあがれば?」



佐藤とか鈴木とかじゃなかった。ニアピンだったわ、と思ってから海を見た。



「ニアピンでもないか」


「え? 何か言った?」


「……別に」




ザザザザっと波が寄せて引く。


月はさっきよりも遠くへ行ってしまったようだった。


指の間に入った砂が、ゾワゾワと消えては湧いてくる。


私は立ち尽くして海に浮かんだ月を眺めた。



「……」



くるぶしまでズブズブと砂に埋まり現れる。


それを繰り返しているうちに足の感覚がバカになってきた。


憑りつかれたように、足を一歩踏み出す。


底なし沼のような砂が足首まで捕まえてくる。




「! おい!」




腕をぎゅっと掴まれて後ろに引っ張られる。



「!」



ハッとしてふり返ると、怖い顔をして魚介の介のオースケが私を見下ろしていた。



「……」


「何やってんだ! 危ねえだろ!」


「……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る