第2話
夜、にぼしを食べた。
その瞬間、恋に落ちてしまった。
美味しかったのだ。
にぼしを食べることの喜び。にぼしを愛することの喜びを知った。
私は帰宅しておやつがわりにと味噌汁用だった袋を手にしたそのときから……
恋は始まる。
運命の歯車のなかで、私たちは、出会った。
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学校に行っても、頭の中にはにぼししかなくて、課題のデッサンよりも、ずっとにぼしをかきあげていた。
その絵を見返しては顔が赤くなる始末……
お昼になってゆきえが心配そうに私を見た。
「ちょっと、大丈夫? なんだか、かな子、顔赤いよ」
「うん……」
ゆきえになら、言ってもいいかな。
昨日、私、初恋を経験したの。
言おうとしてなんだかうまく言葉にならない。
にぼ、まで口にしたけどきゃーっと顔を覆ってしまった。
どきどきんと、心臓が暴れていた。
「あ、恋?」
ゆきえが鋭くしてきする。
「そうなの……あのね、王子さまは袋詰めされてたの」
ゆきえは、ぎょっとしたけれどすぐに、そっかーついにかな子にも春が来たのね、と祝福してくれた。
「告白はしないの?」
告白……
して、どうなるだろう?にぼしの自由を、私が奪って良いわけじゃない。
胸が、ずきずきといたくなる。
「こわいよ、ううっ」
にぼしに、嫌われたら私、何を食べればいいの?私は涙を流していて、集中が出来なかった。
授業のあとは昼休みだった。
チャイムがなると、とりあえず人気がないとこでお弁当をいただくことになっていたけど、あまり、食欲がない。
頭のなかは、にぼしに告白するかしないかで揺れている。
そういえばにぼしって、何が好きなんだろう……
私は、好きな相手のことを何も知らないことに気がついた。
「にぼしこを買ってこいってさー、マジ、だる。
猫用のにぼしじゃだめかねぇ?」
涙がばれないように廊下をうつむいて走っていたら、そんな男子生徒の声が聞こえて、私ははっと顔をあげる。
にぼし子。
そのさらに隣の男子が
「にぼしとお前、お似合いだよな」なんて言う。
「ばっか、お前、にぼしにお似合いなのはにぼし子ちゃんだろ?」
ハハハハ!と二人は笑いあいながら過ぎ去る。
彼女、いるんだ……
ずきん、ずきん、ずきんずきん。
胸がいたい。
にぼしとお似合いの、にぼし子のことが頭から離れない。
どんな子なんだろう。
私より、素敵な子だろうな。
授業なんか投げ出して、にぼしを食べるために家に帰りたかった。
私は人間だっていうのはわかってる。でも、でもにぼしを好きな気持ちは変わらないよ。
たとえ、にぼし子ちゃんがいたって。
袋に詰められた干からびた身体、そこから発せられる、まるで私をひきこむフェロモン。
私に染み付いて離れない。
だけど、にぼし子ちゃんが居る。
こんな辛い想いするなら……あの日、お味噌汁なんか作らなきゃよかったのに。
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