幸せな二人

たくひあい

第1話

片口君……!

私は片口君を駅前で見つけて手をあげて合図した。


片口鰯と私は、付き合っている。

駅をはさんだ両極に学校がある私たち。

駅で待ち合わせて

「進路希望の紙、なんて書いた?」


「煮干し」


なんてささやかな会話をしながら一緒に登下校する。人と人しか付き合っちゃいけないという風潮がある昨今だが、私は気にしていない。


だって、想い合っているんだよ?

こんなにも幸せなんだ。それなのに、片口鰯だからなんなのだろう……


「ごめん、揺れるよね」


私は水槽を抱えてあるく。

ちゃぷちゃぷと、波打つ中で、片口君は全然余裕そうにしてる。


「別に、大したことないよ」

カッコつけちゃって。

なんだか涙が出そうになる。


手を繋いで歩けなくても、抱き締めてもらえなくても私、こうやって今話をするだけで充分なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る