第34話 ひとつの時代が終わって、次のフェーズに移りました

吹雪ふぶきさん、検査サーバーオペレーションをやってください』


 案件265の検査プログラムのデバックも完了して、いよいよ初号機検査。


「え、私がですか? 坂元さかもとさんのほうがいいんじゃないですか」

『ソフト班では、新人さんが関わった検査サーバーオペレーションは新人さんに任せるの』

『大丈夫。俺もあけぼの主任もプログラムにバグが残っていないことを確認して、そのうえで俺が補助につくから丸投げじゃないよ』

「はい。ちょっと緊張しますが、執り行わさせていただきます」


『肩の力を抜いたほうがいい、俺も1年前に経験した』

「はい、しまさん、ありがとうございます」

『ソフト班全員が吹雪さんの背中を護ってるから、安心して』

「はい」


『そろそろ時間ね。坂元君、Mミーティングシステムは?』

『起動完了です』

『諒解。工場、予定通りチャットチャンネル11にエンゲージしてください』


 チャットチャンネル11……エンゲージ。


【Julio】工場のJulioフリオ Marioマリオ Belgranoベルグラノです。検査プラットフォームの主担当を務めます。よろしくお願いします。

【いすゞ】工場の五十鈴いすず、検査プラットフォームの副担当です。よろしくお願いします。

Crescentクレッセント】工場長の三日月みかづきです。初号機検査に立ち会います。よろしくお願いします


【ちおり】システム検査課の吹雪ふぶき 千桜莉ちおりです。検査サーバーオペレーションを担当します。よろしくお願いします

【ゆーごー】システム検査課坂元さかもとです。検査サーバーオペレーションの補助をします。よろしくお願いします

【ぼの】システム検査課あけぼのです。システム検査課側の立会です。よろしくお願いします。


【ちおり】検査要領に従って、最終の検査前チェックを行います

【ちおり】検査プログラムの有効化アクティベートを確認しました、初号機の検査プラットフォームへの接続、検査プラットフォームがリモートになっていることを確認してください


 …………


【ちおり】すべての準備が完了していることが確認できましたので、検査プロセスを起動します

【Julio】|諒解

【ゆーごー】諒解

【いすゞ】諒解

【Crescent】諒解

【ぼの】諒解


 検査はあっけなく終わって、ディスプレイ上に「true合格」と表示された瞬間、第2倉庫でのできことが脳裏に浮かんだ。


 “〇〇か。何もかもみな懐かしい”っていうセリフは何のアニメだっけ?

 今はその意味が分かるような気がする。


『合格だね。うん、良かった』


【Julio】検査プラットフォームでのtrue表示を確認しました

【いすゞ】セルフチェックの結果、量産初号機、検査プラットフォームともに異状は検知されていません

【ちおり】諒解です。これで初号機検査を終了します。お疲れさまでした


 ふう。


【Crescent】工場長の三日月です。機能も優れてるし、良く練られたユーザーインターフェースだと思う。良いプログラムをありがとう


「坂元さん。工場長からお礼を言われちゃいました」

『三日月工場長はいつもねぎらってくれるけど、あそこまではなかなかないよ』

「そうなんですか。ちゃんとお礼を言ったほうがいいですよね」

『うん、そうだね』


【ちおり】三日月工場長、頑張った甲斐がありました。今後もご指導ご鞭撻よろしくお願いします

【Crescent】うん、またよろしくね


『吹雪さん的確な指揮だったし坂元君お疲れ様。課長へは私から報告するから、課長のOKが出たら、工場側で検査できるようローカルモードに切り替えてあげてね』

『はい』


『お願いね。よし課長に報告』


 …………


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ひとつの時代が終わって、次のフェーズに移りましたね」

『ちょっと大げさかもしれないけど、その通りだね』


 いつもの休憩コーナーでお弁当タイム。

 最近はおかずトレードを始めた。


『このなます美味しい」

『柚の果汁を加えてみたんだけど、うまくいったみたいだ。千桜莉さんのナスの煮浸しすごい美味いよ』

「出汁の工夫が成功したみたい」


 雄郷の反応……なんかいつもよりいいみたい……?


「あのね、ついにすぐる真莉愛まりあちゃんのご両親に挨拶に行ったんだって」

『それそれ。うまく行ったのかな?』

「成功したんだって」

『そうか、それは良かった』

「雄郷さんのアドバイス通り、丁寧に、かつ、変にへりくだったり遠慮したりせず、堂々と振舞ったみたい。ありがとうって言ってた」

『そっちも、ひとつの時代が終わって次のフェーズに移ったね』

「そうね……そのとおりね」


『それで……俺、そろそろ挨拶に行こうと思うんだけど、いいかな?』


 フフ


「ぜひ来て。雄郷さんのことは母に話してあって、賛成してくれてるよ」

『そ、そうなんだ、都合のいい日を聞いといてもらえる?』

「たぶん週末がいいと思うけど、聞いとくわ」


「真莉愛ちゃんは事前にお母さんとお姉さんに話して、二人に味方になってもらったそうよ。その上で、ね」

『歴史を動かすのは女ってのは本当だな』

「そうよ、お千代ちよさんは山内やまうち 一豊かつとよを操縦したし、紂王ちゅうおうの陰に妲己だっきあり」

『あんまり良くない事例だよ。後者は』


「お父さんの心は開かせとくよ。私と母とで、まあ傑も使うか」

「うん、ありがとう。みなさんによろしく言っといて」


 こっちも、次のフェーズへ?



『実は俺の父母にも何も話さないうちにばれて、今度連れてこいって言われた。申し訳ないんだけど』

「申し訳ないってことはないですよ。雄郷さんの生まれ育った地を見て見たいし、ご両親とお話ししたい」


『えーと、福島ふくしま伊達だて市は、果樹栽培、加工が盛んで、あんぽ柿をはじめとしてこれでもかっていう程果物は食べられるし、あとは……市内に温泉はないけど、隣の福島ふくしま市にはヘレン・ケラーが滞在した飯坂いいざか温泉があるよ』


『それと、我が家はサラリーマンの父と在宅でWebコンサルをやってる母と俺の3人です。おめでたい事が大好きな両親だから千桜莉さんを連れてったら舞い上がっちゃうんじゃないかな。あと、本家のおばあちゃんも輪をかけて舞い上がると思うな』


「えーと、伊達だて氏の分家の大條おおえだ氏が最初に本拠を構えたのが今の伊達だて梁川やながわ町でしたし、後に本拠を構えたのが坂元さかもと城という城なので、なにかゆかりがあるのかなと思って」

『ああ、もっともな疑問です』


『俺も中学生の時に同じ疑問を感じて、夏休みの自由研究で本家のおばあちゃんにあれこれ尋ねたり、あちこちの図書館とか保原ほばらってところにある歴史文化資料館で調べたけど、関連は見つからなかったし、先祖伝来の武具とかもないです。それに坂元城は江戸時代に入ってからの名前で、その前は坂にブックの坂本城でした』


『もちろん、これで大條氏と関連がないと証明できたわけではないですが、よく言われる“変なプライドのある旧家”ではないので、安心していいですよ』


「え? 見抜かれてました」


『苗字と住所は、特に城との組み合わせで意味深ですから。でも、俺の実家の話はまだ先でいいと思う』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 最初男主人公の苗字を大條として坂元大條氏(本家)の分家の分家の分家という設定にしようと思ったのですが、ビビってしまい、やめました。




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