最終章 六ヶ岳ブルーの空の下で

第15話 約束 〜永遠

 旅人と私は、まるやま湖のベンチで話していた。


「もうすぐ旅人は東京に戻るんでしょ?」

 夏休みがもうすぐ終わる。

「うん。永遠は?」

「私は……帰らないかな。あの教室には」


 利理子ちゃんや、やよい先生と会えないのは寂しいけど、今は離れていても繋がる方法がたくさんある。


 何度も引越して、

『これからもずっと友達でいようね』

 そう何度も約束して、

 でも、時間ときが過ぎれば、いつのまにか離れてしまう。私だって連絡しなくなるし、それは仕方ないと思っていた。


 でも、そうじゃないこともあるかもしれない。

 大好きな大切な本だから、少し迷った。旅人なら……きっと。


「旅人。これ」

 旅人に本が詰まった手提げ袋を渡す。

「え? ああ! カタリナの本だ。ありがとう」

「今度、会うときでいいから、返してね」

「わかった。また次の夏に会おうね。約束する」

「うん。約束だね」


 約束は守るためのもの、だと思う。


 相手との約束。


 そして、自分との約束だ。

「私はこの約束を守る」という約束。


 旅人はどうなのかな。


 六ヶ岳ブルーの空。

 深い高い青空に、ほんの少しだけ秋の気配が混ざるようになったと思う。


「……永遠」

 旅人は私を見て言った。

「もう一度、言うよ。生まれてきてくれて、出会ってくれて、ありがとう。この夏はとても楽しかったよ」


 え、え、え……?

 これって……? 告……。


「離れていても、僕達はずっと繋がってる。この六ヶ岳で待ってて。レオンをよろしくね」


 えー、さっきの言葉の続き、続きはないの?

 ス……とか。


 内心、少しガクッときた。


「……わかった」

 まぁ、いっか。


 旅人が帰る日、私は家には行かなかった。そっとレオンを連れ出して、付き合ってもらう。


 行き先は、まるやま湖のあのベンチ。


 車が通り過ぎていく。旅人の乗っている車は、きっとあれだ。

 私は大きく両手を振った。


 気がついてくれたかな。

 気がつかなくてもいい。

 きっと、また会える。

 六ヶ岳ブルーのこの空の下で。


 レオンの首に抱きついて、つぶやいた。

「レオンも私も、旅人のことが大好きだものね」


 レオンがひと声「ワン!」と吠えて……。


 夏休みが終わる。

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