第六話/激突!中野区防衛指令
巨大特撮がやりたい。
それは真木野の密かな夢であった。巨大特撮のロマン、それは無限大。
しかし、巨大特撮をやるには金が掛かる! あと、権利関係も面倒! 真木野は命知らずではない。ならどうするか? そうだ! 自分が巨大になれるライトを作ればいい!
「というわけで、人が巨大になれるライトを作ったんだ」
「スゲー! ビッグ過ぎるライトじゃん!」
窓際に立ちニコニコと笑う真木野。懐中電灯にも似た「ビッグ過ぎるライト」を手に持った吉田は「ところで巨大特撮って何?」ときょとんとする。瞬間、真木野が光の速さで吉田に詰め寄った。
「吉田君、巨大特撮を知らないのかい? 巨大特撮っていうのはね、例えば光を纏った正義の巨人や熱光線を吐く悲哀の怪獣、大自然の力を借りて巨大化したヒーロー、巨大な戦艦、一と七が目印の大きなロボット……作品は様々あるけれど、簡単に言えば巨大なヒーロー、怪獣、戦闘機が悪の組織や悪い怪獣と戦うジャンルと言えるね。そもそも巨大特撮というのは……」
「ちょ、真木野先生近い! って、ウワーッ! ライトのスイッチ! 押しちゃったァーッ!」
「ちょっと、吉田先輩うるさいんですけど! また大家に怒られ……グアァーッ!」
「か、鹿又くーん!」
吉田が手に持っていたライトがピカーと光り、リビングに入ってきた怒りの鹿又に照射された!
ライトに照らされた鹿又の肉体が、ミラクルな変化を遂げていく……。
一方、その頃地球防衛軍。
広々とした作戦会議室では、宇宙から飛来すると予測されている怪獣「デットル」の対応に追われていた。
「リーダー! このままでは、デットルが中野駅に飛来し、甚大な被害が出てしまいます!」
隊員のムロホシが言う。リーダーであるハヤシバラの隣、会議室に来ていた参謀のムラナカも深刻な表情で頷いた。
「これは、史上最大の侵略だ」
ムラナカの言葉に、ハヤシバラは黙り込む。その間にも、会議室では「早く対処しなければ!」という声や「リーダー! どうするんですか!」と隊員たちがざわめく。
ハヤシバラは、会議室の窓際に歩いていき、一言呟いた。
「この状況を打破出来るのは、彼しかいない……」
****
「カマタ〜! どうしてそんなに大きくなっちゃったんだよ〜!」
巨大化したカマタに叫ぶ吉田。お前のせいだよといつもなら突っ込む鹿又であるが、巨大化したカマタには聞こえていない。ついでに眼鏡もない。
「メガネ……メガネ……」
カマタが手探りで眼鏡を探す。カマタの指先が当たった建物は軒並み崩壊し、電線が千切れて火花が飛んだ。
「すごい! 実験は大成功だ!」
「そんな悪の科学者みたいな事言ってないで何とかしてよ真木野先生!」
吉田が叫ぶも、真木野は巨大化したカマタに釘付けである。歓喜に震える真木野は、今日に限ってはかなり役に立たない。
すると、突然カマタの頭上を何かが通る。
「あれは……地球防衛軍の戦闘機だ! 何故こんな所に……」
カマタの頭上を旋回する銀色の星、「スターダム」だ。スターダムは、地球防衛軍が所持する特殊な戦闘機である。真木野は「あれは非常時でないと発進しないんじゃなかったのか……?」とブツブツ話している。吉田が素直に「今が非常時じゃん」と言っても聞こえない。
カマタが頭上に飛ぶスターダムに気が付き、ぼんやりとした視界のままスターダムを追う。知能が低下しているらしく、「ハエダヨ〜」と言いながら手を振り回す。カマタが歩く度に街が破壊されていく。
「先生! カマタを追わなきゃ!」
「ああ、そうだね。それにしても、スターダムは何処へ向かうのだろう……? そういえば、さっき傍受した地球防衛軍の通信で、宇宙怪獣が中野に飛来すると言っていたな……」
「違法無線使ってる場合じゃないよ! とにかく行こう!」
吉田と真木野が走る。しかし、すぐに真木野の体力が尽きたので、吉田が路上に捨て置かれたママチャリに真木野を乗せて走り出した。
吉田と真木野達が中野に向かう中、いち早く中野駅周辺に到着したスターダムは「リーダー、誘導完了しました!」と無線器に呼びかける。
「よし、そのままデットル飛来地点から逃さないように。あと二分でデットルが飛来する」
「了解」
リーダーの命令に、隊員が応答する。誘導されたカマタはふらふらと周りを見渡す。そういえば自分がメガネを探していた事を思い出したのか、また「メガネ」と連呼して中野駅を指先で荒らしていく。突如現れた巨人に人々が逃げ惑った。
地球防衛軍の隊員や兵士達が続々と中野駅に集まり、空を見上げる。
「デットル、大気圏突破……中野駅に飛来します!」
隊員の言葉と共に、轟音と地響きがした。砂煙が上がり、カマタが狼狽える。
砂煙が落ち着くと、中野駅北口に「デットル」がその姿を現した!
「何だあれ!」
中野駅の近く、ママチャリを漕いでいた吉田が目を丸くする。真木野は「あれは宇宙怪獣デットルさ」と空を見上げる。
ヒルやナメクジのようなヌメッとした表皮に、ぶくぶくと太った緑色の三段腹。寄生虫などにも似たその醜い容姿に、吉田が顔をしかめた。
「まさか、カマタ……あれと戦うの?」
デットルが表皮をうねらせ、カマタに近づいていく。カマタはうっすら視界に見えるデットルに「デケーナメクジ、キモ」と呟く。
今、世紀の大乱闘が始まろうとしていた。
****
先に動いたのは、カマタだった。カマタは元々、ヒルやナメクジが苦手である。本能的にコイツは抹殺すべきだと思ったカマタは、勢い良く飛び蹴りを仕掛けた。
飛び蹴りを仕掛けられたデットルの表皮がぐにゅりと歪む。カマタが「キメエ〜」と叫ぶと、大地に轟いた。
デットルが、もたげた頭の先端から触手を出してカマタの足を掴む。そのままカマタを引っ張り上げ、中野サンプラザの方まで放り投げた。
中野サンプラザが崩壊していく。腹が立ったカマタは、瓦礫を武器にデットルに立ち向かう。
「なんて、すごい戦いなんだ……」
遠くから戦いを見ていた真木野が言う。これが僕の見たかった巨大特撮だ。そう感激する真木野の横で、自分がとんでもないことをしたと後悔している吉田である。
吉田の脳裏に、カマタとの思い出の日々が浮かんだ。グリーンカレーを食べた事、煙草の銘柄で喧嘩をした事、何やかんや言いながら配信の手伝いをしてくれたこと……。ああ、カマタ。
「吉田君! あれを見てくれ」
吉田がハッとすると、遠くでデットルの触手に巻き付かれているカマタが見えた。触手はチカチカと光り輝いていて、最初こそ暴れていたカマタがどんどん弱っていく。まずい、貧血になっている!
「カマタを支えるヒュージエネルギーは地球上では急激に消耗する。ヒュージエネルギーが残り少なくなると、カマータイマーが点滅する。そしてもしカマータイマーが消えてしまったら…カマタは二度と立ち上がる力を失ってしまう。カマタ頑張れ、残された時間はもう僅かなのだ!」
「カマタ! 頑張って!」
真木野の冷静な解説と吉田の応援。血色の悪くなったカマタは、「サムイ」と言いながら震え始めた。血が足りず、体温が保てないのだ。
カマタ……吉田の目に涙が浮かんだ。こんなに頑張って戦ってくれたというのに。こんな終わりなんて。
吉田が俯き、悔しさで唇を噛みしめる。
「何か……おかしいぞ」
真木野が気づく。震えるカマタの身体が、青く光っているのだ。足の指の先から、徐々にその光はカマタの身体をせり上がっていく。
エネルギーをチャージしている。そう気づいた真木野は、「吉田君、伏せるんだ!」と叫んだ。
言われるがまま吉田が伏せた直後である。
「ブシュワッヂッッッ!」
青白い光が、カマタの顔から照射される。熱光線だ! 激しい音と爆風が中野駅を包み込む。光で視界が眩み、吉田と真木野が目を閉じた。
数分後、光と風が収まった事によって二人は目を開く。
「あれは!」
真木野が指さす。視線の先で、デットルの身体が半壊していた。ブヨブヨとした肉体の上半分が、カマタの熱光線で吹き飛んだのである。
光線に貫かれたデットルはグラリと倒れ、体内から爆発四散。
ついに、デットルはカマタによって倒されたのだ!
****
それから、残されたカマタは上層部からの命令により、地球防衛軍が捕獲して宇宙へと放流された。彼は我々の手には負えない存在だと地球は決定したのである。
崩壊した中野から見える美しい空を見つめ、真木野は言った。
「カマタは死んでいったんだろうか…。彼は最後の最後まで人類の為に戦ってくれた。カマタを殺したのは僕達だ。あんなに良い奴を…。」
すると隣にいた吉田が更に言う。
「そんな馬鹿な! カマタが死んでたまるか! カマタは生きてる。きっと生きてる! 遠い宇宙の彼方から、俺達の事を見守ってくれるはずさ。そしてまた、元気な姿で帰ってくる!」
確信したような吉田。目には涙が浮かんでいた。
「西の空に明けの明星が輝く頃……一つの光が宇宙へ飛んで行く。それが僕なんですよ。さよなら吉田先輩」
ふいにそんな声が聞こえた気がした。
主題歌が流れ……空にはカマタ型の星座が浮かぶ。
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